11月 24 2014
“今ジャズ”とJ-POPの繋がりを探る
定例でやらせて頂いているレジーさんの「レジーのポータル」でのプレイリスト企画、なんともう5回目になるんですが、今回もそのプレイリストを元にしたブログ記事です。
今回は「“今ジャズ”とJ-POPの重なる瞬間」というテーマです。今ジャズって何?とかそういうことはおいおい説明することとして、このプレイリストと記事を通じてJ-POPリスナーに今のジャズをお勧めしたいという趣旨です。因みに曲目はこんな感じ。いくつか怪しいのもあるけどまあ許してくださいw
- サカナクション「さよならはエモーション」
- the HIATUS「Waiting For the Sun」
- cero「Yellow Magus」
- シャムキャッツ「MODELS 」
- 吉田ヨウヘイgroup「ブールヴァード」
- elephant「チークタイム」
- Emerald「Summer Youth」
- Jose James Featuring椎名林檎「明日の人」
- Ovall「Hold You feat.Yu Sakai」
- SANABAGUN「B-Bop」
- cro-magnroon「Patchwork Jazz 」
- fox capture plan「衝動の粒子」
- Libstems「Initial Lies」
まず、”今ジャズ”とは何かということだけど、この呼称は菊地成孔さんによるもので(この名称菊地さん以外が使ってるの見たことないんだけど(ブコメで指摘ありました。最初に使ったのは大塚弘子さんとのこと。ありがとうございます)わかりやすいので使います)、ロバート・グラスパーの「Black Radio」の成功によって確立された「Jazz Meets Hiphop」なジャズ、というのが凄くざっくりとした説明です。Jazzy Hiphopみたいにヒップホップ側からのアプローチでは無いことが重要(そもそもヒップホップ自体がジャズをサンプリングしてビートを作ってきた歴史があるわけで、その逆回転というのがエポックメイキングだと)。詳しくは春頃に書いた記事と次の記事を参照されると良いかと。
「『今ジャズ』のリズムを解説。」 – djapon の 『FEEDBACK DIALY』
さて、ele-kingの別冊「プログレッシヴ・ジャズ」では菊地さんはこのように語ってます。
「今ジャズ」はグラスパー・エクスペリメント周辺とホセ・ジェイムス周辺、それからフライング・ロータス周辺、この3つと、ここと全く関わらない同世代の動きを外郭第一層としておけば十分だと思う。
なぜかというと、そうしておかないと何でも同じムーブメントの中の物ということになり本質がぼやけてしまうからだそうで。というわけで、本記事でもそのくくり方に基づいて解説していきたいと思います。実際そうした方がわかりやすいし実際にこの3者とJ-POPの繋がりがまず目立った動きとして出てきているので(ただ、「プログレッシヴ・ジャズ」よりも「Jazz the New Chapter」1と2の方がより前出の三者にフォーカスしているのでその分読みやすいと個人的には感じた)。
●今ジャズ的ビートとサカナクションの両A面シングル
まず、そういった流れの最大の象徴が10月に発売されたサカナクションの両A面シングル「さよならはエモーション/蓮の花」。まず「さよならはエモーション」だけど、これ初めて聴いたとき僕のけぞったよ。
これ、イントロが思いっきりロバートグラスパー・エクスペリメントの「Let It Ride」にインスパイアされてるんじゃないかと思ったから。
そんでもってサカナクションオフィシャルサイトでの特集記事のインタビュー開いてみたら、思いっきりこんなこと言ってるのね。
–小さい音は小さく、大きな音は大きく聞こえる。つまりダイナミック・レンジが広い。コンプをいっぱいかけると音が圧縮されるから、ダイナミック・レンジが小さくなるけど、土岐さんのミックスはそうじゃなかった。
「それって僕が最近よく聞いている、ロバート・グラスパーとかテイラー・マクファーリンみたいなジャズのダイナミクスにすごい近かったんですよ。僕はそれを<インディーズ感>って呼んでたんです。生々しい、リアルな、ライヴな音。」
そんでもって蓮の花はテイラー・マクファーリンのアルバム「Early Riser」の全体的な雰囲気を上手く拾ってる。
具体的にはこの辺が近いかな。
テイラー・マクファーリンの名前を知らない人も多いと思うので説明しとくと、彼は今年フライング・ロータスのレーベルである「BRAINFEEDER」から今年CDデビューした若手ジャズメンで、お父さんもジャズ・ボーカリストというサラブレッドなんですね。因みに彼は今年2回来日してて、9月の単独公演の方は僕も行ったけどとてつもなく面白かったです。山口一郎さんは1度目の来日の直前に「Early Riser」をヘビーローテーションしているということとライブに行けなくて残念だということをTwitterで話してたので、なんとなくそういう感じの作品が来るかなあという気がしていたんだけど、こういう落とし込み方をするのか、さすがだなあと思った次第(サカナクションの音楽はその時にメンバーがハマっている物に強く影響を受けた物がよく出てきます。今までもBibioやAOKI Takamasaなんかをダイレクトに反映している音があったわけで。)。
んで、ロバートグラスパーとテイラー・マクファーリンの楽曲に共通しているのは、「ドラムがヒップホップやドラムンベースといった所謂ブレイクビーツ系統のビートを人力で再現している」ということ(テイラーは結構打ち込み混ぜたりしてるけどね)。それをサカナクションが上手くJ-POPの中に取り入れているというわけ。さよならはエモーションのイントロは「Let It Ride」同様の人力ドラムンベース。蓮の花(特にMovie Ver.)はイントロにおけるバスドラムのタイミングが凄くズレてるというかヨレてる感じになっている。とかく今ジャズの特徴はビート、更にいうとドラムが前に出てきていることで、菊地さんは「グラスパーの一番の功績は、ジャズ・ピアノの多弁製を思い切って押さえて、キラキラのアルペジオばっか弾くことでドラマーを前面に押し出した点」と言っているし、ピアノはドラムの伴奏とも言い切っている。その、前に出て来たビートを思いっきりサカナクションが取り入れてるのはめちゃめちゃ面白いし、彼等の、ひいてはJ-POPミュージシャンの吸収力には脱帽するばかり。
因みに同じくリストに挙げたSANABAGUNがDJプレイを生バンドで再現するのも、同じような方法論と言えるでしょう(前出の「プログレッシブ・ジャズ」のインタビューでドラマーのIPPEIが好きなミュージシャンに「ロバートグラスパーやクリス・デイヴ」を挙げてたくらいだし、最初にこのスタイルをやってみたのはホセ・ジェイムスが話題になっていたからだと話している)。
●Shiggy Jr.と今ジャズとJ-POP
さて、今回YouTubeに音源がなくて載せられなかったものがひとつあるのです。それはShiggy Jr.の「Baby I Love You」。この曲はライブで聴くとより今ジャズ感のある少しずらしたようなリズムになっているのだ。まさに今ジャズの影響下にあるリズムと言える。それを裏付ける話として、今年の夏にレジーさんがメンバー全員にインタビューしたときにベースの森さんとドラムの諸石さんがこんなことを言ってたりする。
森「大学時代には2人でリズムの研究とかを自主的にやってました。ホセ・ジェイムズの音源聴いて、ハイハットの揺れ方がどうとか」
諸石「黒人特有のビート感というか、どの辺がどう揺れてるのか研究してましたね」
そのインタビューを読んだ次の日にライブで「Baby I Love You」を聴いたとき、これが研究の成果か…!と一人納得してました。そんでもって森さん諸石さんは5月にテイラーマクファーリンが来日したイベントである、BRAINFEEDERのライブパーティに行ったそうなんですね(因みに森さんは遅刻して、着いた瞬間にテイラーのライブが終わったらしいw)。んでもってボーカル池田さんもまたフライング・ロータスが好きとのことで、この辺の音楽への親和性が極めて高いのは間違いない。しかも先日の自主企画ライブでの対バン相手はSANABAGUNとlyrical school。その辺りへの志向姓をすごく感じる。
因みに森さんはテイラーの来日の辺りで彼等の特徴を捉えたツイートをしているのでここでご紹介。
「Jazz the New Chapter」でも、ロバートグラスパー・エクスペリメントの全ドラマーであるクリス・デイヴについて似たような説明がされていたので併せて引用する(因みに「Double Booked」というアルバム収録の「Butterfly」について)。
クリス・デイヴのスネアは微かにズレてはねたリズムで小刻みに乾いた音を出し、ハイハットはまるでメロディックな上モノのように躍動し、キックはベースを追いかけさせるように前のめりに進みながら正確なタイミングをキープする。
森さん諸石さんの加入は今年の初めなので、ソングライターである原田さんとの相乗効果はこれから更に進んでくるものと推測され、元々バンドが有しているポップネスの中にそういった最先端の成分をどう混ぜていくかというのは楽しみな話だ。それにしても、先日見たShiggy Jr.のライブは凄かった。とにかく盛り上げ力というかフロアへの熱量の伝播力が凄まじかったんだけど、音楽面でもとにかく演奏者が増えてきたりとかしてるのね。これはcero(リストにも挙げたし春にも紹介した、グラスパーの影響を受けてるミュージシャンでもある)や吉田ヨウヘイグループのやってることともリンクするし(ホーンを入れたりなんかは山下達郎的なシティポップの影響が強いと推測されるけど、それもまたブラックミュージックの色が濃い)、J-POPのいろんな要素が詰まってたりする。次の作品どうなるんだろう。
そしてホセ・ジェイムスといえば、プレイリストにも挙げているけど椎名林檎と共演している(今年出たニューアルバムの日本盤のみのボーナストラック)。ユニバーサルのYouTubeには椎名林檎がホセとの共演について語っているインタビュー動画があるのでぜひ見てみて欲しい。因みにその中で結局データのやりとりだけで直接会わずにレコーディングしたみたいなことを言ってるけど、「Jazz the New Chapter」の1と2を読んでいるといろんなミュージシャンのインタビュー記事でそういう作り方をしてる記述が結構出てくる。インプロビゼーション(即興)の音楽と言われているジャズでも、作り方が大きく変わっているんだな、と思わせるところだった。因みに、その「Jazz the New Chapter」を通じてASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチこと後藤正文がグラスパーに出会って衝撃を受けたりしてて、バンドでは無理かもだけどソロではその辺アウトプットしてくるんじゃないかなということでこれから期待できそう。
流行の EDMを取り入れる(もはやマジックワード化した表現だけど)とかガラパゴス4つ打ちロックが云々とかそういう話もあるけど、こういうジャズとの交わりも密かなムーブメントであり、今後注目に値する面白いテーマだと思うところで、この辺は引き続きウォッチしていきたい。そして、菊地さんは「今ジャズによって拝外主義が復活した」というけど、リストの最後にも挙げた通り日本の若手ジャズメンもまたポップス・ロックなんかから色々吸収してアウトプットしてて面白い。今、ジャズがすごく面白いですよ!!
8月 4 2015
イマドキの夏ソング!?~Shiggy Jr.と lyrical schoolの新曲とワンマンライブの話
夏は夏ソングの季節として(主に僕に)有名だけど、今年の夏はこれだっ!て感じになるのがShiggy Jr.の「サマータイムラブ」だ。「Shiggy Jr. is not a child.」で耳の早いリスナーの注目を集め、「LISTEN TO THE MUSIC」のリリースから一気に駆け上り、メジャーレーベルの争奪戦を経てついに今年メジャーデビューしたShiggy Jr.。その新作ということで嫌が応にも期待が高まっていたが、軽々とその期待を超えてきた。
そして同じくらい聴いているのがlyrical schoolの「ワンダーグラウンド」。3度目の登場となり、tofubeats同様リリスクとの相性が良いLITTLEによるリリックに加え、ももクロの「5 The Power」作曲・編曲のSUIを迎えて作られたディスコ・ヒップホップとでも言うべき、とても面白い作品。
この2曲、世界観に共通してる部分があり、そこにすごく今っぽいなあと思うところがあるためその辺を掘り下げてみたいなあということで、今日はこのブログではほとんどやったことの無い「歌詞」の話。それから7月に双方のワンマンライブに行っているのでその話も併せてしてみたい。
●永遠ではないとわかっている夜の話
両方の曲を聴いて感じたのは、「思い浮かぶ風景が夜」だということ。
上記のように厳密には「サマータイムラブ」の方が「ワンダーグラウンド」よりも早い時間の夜(というか夕方)ではあるが、どちらも1日が終わりに近づいている局面の心情を描写した歌だ。「サマータイムラブ」の曲名は欧米で行われている制度としてのサマータイム(国全体として1時間時計をずらす)ところに由来しており、もしそうであれば1時間長く一緒にいられるのに…という恋心を歌った曲だ。夏→太陽→開放的みたいなのが一般に連想される夏ソングのテンプレだが、そういう図式とは真逆だ(リリスクのこれまでの夏ソングはそんな感じだったけど)。
しかし、ただ夏の夜をテーマにしただけの曲であれば別にあるんじゃない?というところでもある。そこで出てくるのがこの2曲に共通する「永遠ではないという諦観」だ。
「サマータイムラブ」では「二人の時間」が続くことを繰り返し繰り返し「神様」にお願いをしているが、裏返してみればそれはそのお願いがかなわないことをわかっているということでもある。そして、「ワンダーグラウンド」では、「今時間が止まってて見つめ合っていたんだよなんで 嘘でもホントにしてほしい」「ねえここで君と笑ってたいなんて(ダメかな)」と、今の時間がずっと続くものではないということを自覚しているリリックがそこかしこに見られる。極めつけは「私たちはティンカーベルじゃないってとっくに知っちゃってる」という歌詞で、先に言及した「魔法」なんか本当は無いんだと言い切っているかのようだ。
ぶっちゃけ、夏なのに暗い(笑)。まあ今の夏って一昔前より暑いから、心情を描こうとしたら必然的に夜になるかもしれないけどさwただ、それゆえに妙なリアルさがあるのもまた事実。そこにとても心惹かれる部分がある。
●ジャンプアップのワンマンライブ
7月にはこの両者のワンマンライブがあった。1日にShiggy Jr.の初めてのワンマンライブが渋谷CLUB QUATTROで、25日にlyrical schoolの初全国ツアーのツアーファイナルがZepp DiverCityで行われた。両方のライブに行って感じたことを書いておきたい。
Shiggy Jr.のワンマンライブはメジャーデビューしたてでなおかつワンマンライブ自体初めて、ということもあってものすごく熱気に溢れた物だった。1stアルバム「Shiggy Jr. is not a child」から久しぶりに披露された「(awa)」なんかは後半で楽器隊による激しいジャムセッションが繰り広げられたり、初期に発表されていたアルバム未収録曲「おさんぽ」を森さんがウッドベースを弾く等のアコースティック形態でやったりと、楽器隊も含めたトータルのバンドの良さを遺憾なく披露していた、現時点のShiggy Jr.の120%のステージ。
これから更に飛躍して行くであろうことが、会場の誰にも予感できたことであろう。次のライブは11月26日、赤坂BLITZ。一気に倍近いキャパシティのライブに挑戦するわけだけど、この夏の各種フェス・イベントを通じて更に多くの人に彼等の音楽は届くだろうという自信の現れだろう。ここまでド直球なポップスが今の夏フェスでどう響くか、とても楽しみである。
さて、7月25日にはZepp DiverCityにてlyrical schoolの全国ツアーファイナル公演があった。5年間の活動で初めての全国ツアー、そして昨年の年末に行われたLIQUIDROOM公演以来の東京でのワンマンライブ。その昨年のLIQUIDROOMはとにかく曲をガンガンやりまくっていくという物であったが、このZepp公演はまた違うアプローチを取っていた。まず最初にイントロムービーが流れ、そこからつながる形でライブがスタート。曲間にMCが入ったりもしたが、転換にはムービーを活用(これで衣装替えタイムも確保)し、どちらかというと演出主導のライブ、という印象だった。また、ステージ後方部分を高く取り、階段・段差を活用するステージングも見せる(写真はナタリーとかで見てちょ)など、彼女達が6人グループであることを活かした構成にもなっていた(「ひとりぼっちのラビリンス」などはそれがフルに発揮されていた)。リキッドルームの時は「曲!曲!曲!」という畳み掛けるようなライブだったのが、文字通り「奥行きのある」ライブになっていた、というのが率直な感想で、これが全国ツアーでの成果なんだな、と感じた。実際リキッドルームどころか4月のVISIONでのリリースパーティーよりも表現力は増していた。アルバム「SPOT」の収録曲から振り付けがかなり複雑になり、「ラップが置いてきぼりにならないか?」みたいなことを感じてはいたのだが、彼女達は想像以上のスピードで上手くなっているなあと驚かされるくらいの立体感あるパフォーマンスだった。
その上で、「ワンダーグラウンド」がライブの中核に据えられていたわけだが、本編ラストに披露されたその曲までの橋渡し役としてとても重要な役割を担ったのが「Sing, Sing」だろう。「ワンダーグラウンド」とも通じる「永遠なんて ありえないこと わかってるけど 今日も願うよ」という歌詞は、この日のために用意されていたかのようだった。
今回のライブには個人的にはかなりフラットな気持ちで臨んでいたというのもあるが、爆発する熱量!大盛り上がり!というよりは素直に良かったと言えるという方が適切なんじゃないかという気がしている。ライブの最後には11月にオールナイトイベントをやることだけが発表され、新曲や次のワンマンが発表されることもなかった。まるでこのライブも一つの通過点であるというかのように。
Zepp DiverCityの1Fフロア後方は閉鎖され、集客の観点からすると正直全く良くなかったといえる本公演だが、リリスクがZepp DiverCityを選択したのは「大きいライブハウス」というよりも「大きいステージの上で」やることが彼女達にとって必要なことだったから、ではないだろうか。アイドルシーンはこの1・2年で成熟期を迎えた、という感触もあり、もはや「曲やパフォーマンスが良い」は差別化要因にはならない。それ故にそれぞれが「+α」をつけていく必要があり、リリスクにとっての「+α」は今回のライブでの「演出やパフォーマンスの見せ方」だということだろう。であればそれを突き詰め、照明とかももっと使い倒して追究して作り込んで欲しいと思った。既に30分くらいのステージでの彼女達はスペシャルな存在なのだから(もちろんファンが増えないと恒常的にこういう素晴らしい公演が出来ないので、集客それ自体は一つの課題としてあるのだけど)。
とても楽しい時間を2つのライブで過ごせたわけだけど、楽しさと共にそれと隣り合わせな儚さのような物も内包していることから、2組の楽曲が自分の「日常」に寄り添う物になっているなあということを実感した。これから1ヶ月、僕はまだまだこの2曲を沢山聴くだろうなあと改めて思うのだ。
By たにみやん • Music • • Tags: lyrical school, Shiggy Jr.