12月 18 2013
2013年マイベストディスクトップ20 10位〜6位
さて、年末恒例のマイベストディスク企画、前回の20位〜11位に引き続き、10位から6位を発表。ここからは分量を小分けにしてじっくり話をしたい…!!試聴もたっぷり貼りたい!
因みに今年のこれまでの結果はこちらよりどうぞ。
マイベストソングトップ10
マイベストディスク20位〜11位
10位:パスピエ「演出家出演」
上半期とにかく聴きまくってライブも行きまくり、このブログでも継続的に推していたパスピエのアルバムだけど最終的にはこの位置に。まあこのアルバムもいいんだけど、まあトータルで見るとこんなところかな、と。実際のところ現状確認としては良いアルバムだと思う。先行シングルになった「フィーバー」とリード曲「S.S.」が確かにフィーチャーされる回数は多いんだけど、ラス前の「ワールズエンド」で楽器隊が遺憾無く発揮する見せる演奏スキルとアルバムの締めを飾る成田ハネダ氏によるまるで交響曲のような「カーニバル」の構成は正直に言って彼等の底の無さを感じた。
そういえばレジーさんが「最近のパスピエはマーケットインの姿勢が過剰」って言っていたけど、そこは深くうなずくところではあります。「とおりゃんせ」のロックファン狙いの姿勢はお見事だと思うけど前作や前々作大好きな人間からすると複雑なところでもある。アルバム発売直後に購入者限定でやったタワーレコードのインストアライブではアルバム新曲が楽器隊のスキルを見せつける「ワールドエンド」だったのに対し、その直後の夏フェスでは比較的わかりやすい和風ロックチューンの「はいからさん」っていうのは端的にその表れな気がしてる。ON THE AIRのところで言ったけどパスピエの強みは純ポップソングだろうと僕は思っていて、これはどちらかというと前作や前々作の意匠を汲んでる曲。その辺はサカナクションみたいにセールスや知名度あげて折り合いつけるまで二面性が生じるような形になるのかなとか思った。だといいんだけど。
9位:森は生きている「森は生きている」
今年東京のインディーズ界隈で最も話題になったと思われるアルバム。はっぴぃえんどをはじめとした先達からの影響を包み隠さず公言し(彼等のWebサイトのプロフィールを見ると、関連ワードとして羅列されている一番最初に「はっぴぃえんど」が記載されている)、それをダイレクトに表現したフォーク・ロックの今と昔の交錯する音は多分2013年を代表する1枚なのだろう。実際のところ夏の終わりから秋口にかけてよく聴いたし、今と昔・夢と現実・生と死が交錯する間を表現した淡いサウンドは聴いていてとても心地いい(”森”は「メメント・モリ(死を想えと言う意味のラテン語)」からもとっている)。
ところで彼等の曲を聴き、その取り巻く状況を見ているとどうしても似たような音楽性を持つceroとの比較をしたくなってしまう。ceroもまた細野晴臣へのリスペクトを公言していて、そして今年共演を果たしたくらいだが、その上で彼等は最近は明確に自分達がポップミュージックを更新していく使命を負っていると自覚し、実際にそういう発言も公にしている等、かなり自分たちの音楽性について自覚をもってきているように思う。その分今年のライブに多数のサポートメンバーを入れて開かれた音を目指したり新曲にもまたダイレクトにブラックミュージックのエッセンスを取り込んだりするなどこのインディーズシーンから開いていこうという工夫も感じられるところがある。その分森は生きているは全くそういう気負いがなく若い。その若さが魅力でもあるのだろうけど、逆に好き勝手やってます的な感じでインディポップ特有の入れなさ・壁の高さを感じてしまうところがある。次の作品でどういう変化があるのかな、と注視したいところ。
8位:Homecomings「Homecoming with me?」
半年前に今年の新人賞はもうこのバンドでいいでしょって言ったけど、Shiggy Jr.の猛烈な追い上げがありつつも無事そうなりそう。このバンドの音の瑞々しさにはは本当胸を打たれる思い。アコースティックで一度ライブ聴いたけどフルバンドで聴きたい。コーラスワークはビーチボーイズの影響が色濃く出てて、これもまた今と昔が交錯している音。アルバム1曲目の「You Never Kiss」はイントロを聴いただけで青春だ!と思わずにはいられないくらいに胸を鷲掴みにしてくる今年のイントロ大賞。
京都のバンドながら積極的に東京に来てライブをしてくれているので機会を見つけて観に行きたいところ。それにつけても京都のバンドの自分へのヒット率高いからもっと積極的に探索したいですよ。
7位:Negicco「Melody Palette」
新潟から全国へ。Negicco結成10周年での初のオリジナルアルバム。元々の魅力であったconnieさん楽曲に加え、小西康陽、西寺郷太、tofubeats、サイプレス上野とロベルト吉野、RAM RIDERなどの個性豊かな作家陣が腕によりをかけて作った楽曲が彼女たちの素朴な歌声を引き立てている。tofubeats作詞作曲の「相思相愛」の軽やかさは言うに及ばないし、最初の西寺郷太作曲の「愛のタワー・オブ・ラブ」からNegiccoのベストパートナーであるconnieさんの「あなたとPOP With You!」へノンストップでつながる流れは10年分のエネルギーが一気にはじけるのを感じられる。
とまあこのアルバム自体はいわゆる「楽曲派」アイドルファン御用達のアルバムを超えて一般ポップスファンに広く訴えかけるべき作品、ということで普通に良作。となるとやはり出てくるのが去年発売の究極のアイドルポップスアルバム、Tomato’n’ Pineの「PS4U」との比較。というかトマパイとの比較。
あのアルバムはそれこそ10年に1度と言ってもいい位の奇跡的な作品だったけどそれと裏腹にトマパイメンバーのモチベーションは低く、その奇跡を置き土産にあっさり「散開」してしまった。その辺がラストライブのDVD発売記念(?)イベントで語られてるんだけどそこで引き合いに出されてるのがNegiccoなわけ。トマパイのプロデューサーだったジェーン・スーさんは「Negiccoはメンバー同士で説得し合って続いてきた、その気力が羨ましい」と率直に言っている(そのジェーンさんはこのアルバム後の第一弾シングル「ときめきのヘッドライナー」の作詞でNegiccoと共演することになる)。それが端的に表れているのが初の本人による作詞曲「ネガティブ・ガールズ!」。ここの1番サビ前でリーダーNao☆ちゃんの歌う「嫌なことは明日考えよう!」っていう歌詞は、だいたい「忘れよう!」ってなるところをあえて向き合ってきた彼女達の歴史が凝縮されている、と言ったら言い過ぎなのかな。
この曲、タイトル・歌詞と裏腹の軽やかで明るい曲調のギャップある感じが凄く好きで僕としては「相思相愛」と並ぶフェイバリットトラック。「ネガティブ・ガールズ!」という曲名の語源はおそらく吉田豪さんが去年ベスト盤発売に合わせて行なったインタビューなんだろうけど(本人達もナタリーのインタビューで「作詞してたらネガティブなことしか出てこなかったけど、吉田豪さんのことを思い出したらネガティブさも個性だからいいやと思ってこのタイトルにした」と言っている)、これを読むと彼女達はPerfumeもびっくりの苦労を重ねている。今年はアイドルのストーリー合戦が過剰になってる節があってその典型例がでんぱ組.incの「W.W.D」と「W.W.D II」だったけど、Negiccoはあまりそういう苦労話を前面に出してこないのが好感の持てるところである。というかNegicco題材にしたら「W.W.D(いや、Nか)」なんて10本くらい書けるんじゃないですか。お涙ちょうだいは余り好きじゃないんだけど、普通に良いパフォーマンスをしてくれちゃうNegiccoさん達、これを読んだら応援しないわけにはいかないよなあと思っちゃう。とにかく10年かかって作りあげたベースの上に成り立っているとても良い作品。この歌声とトラックの絶妙なバランス感を是非とも保ち続けてほしいなあと思う次第。
因みに今年は2回Negiccoのライブを観た。両方ともインストアで、1回目は新宿タワレコの大観衆の後方で、2回目は地元埼玉の大宮アルシェのステージのすぐ前という好位置で。どちらも素晴らしいステージング。そのキャリアの殆どを自己流のレッスンで成長してきたNegiccoは本当に押しも押されぬ実力派のアイドルと言うにふさわしいと思うよ。だからこそ2013年最も意義深いアイドルソングである「アイドルばかり聴かないで」を歌えるのは彼女たちしかいないんだ。この10年にそれだけたくさんの物を背負ってきたわけだから。
もはやアルバムレビューというか激励文みたいになってしまっている。笑。
6位:のあのわ「Cry Like a Monster」
僕のあのわ大好きだったんですよ。「MAGICAL CIRCUS」ですごいよこのバンド!って思って2010年のCDJでフルセットのライブ見てますますハマって過去の音源全部買ったくらい。んでその翌年にミュージシャンにとっての飛躍のステップと言われてるアネッサのタイアップを取ったまでは良かったんだけどそこに無理に合わせにいこうとしてあまりうまくいかなかったのね。そのタイアップシングル「Have a good day!」もだけど、その後に出たミニアルバム「Hi! How Are You?」はなんというか妙に80年代サウンドに急接近してて、「ファンタジー感とポストロックっぽい所がのあのわなんじゃないの?なんなのこれ?」みたいな感想を持って正直に言うと失望したのです。そしてシングルとミニアルバムの、アネッサにむりやり合わせたとしか思えないアートワークにも違和感満載でここでのあのわからはかなり離れてしまったわけ。さらには年が開けた2012年には僕がのあのわで最も気に入っていたプレイヤーであったドラムの本間シュンタが脱退。もうどうなるのこのバンド…?という感じで今年の3月に出たアルバムも聴くことなく夏くらいまでほったらかしにしてたの。
そしたら僕同様にのあのわ愛好家だったレジーさんが「のあのわの新譜超良い」と話していたので、率直に「マジですか?」と聞いてみた所、次のような返事が。
なので聴いてみたらこれはホントだ。前作で大失敗した80年代ポップスを彼等の音として取り込むというアプローチに今回は完全に成功している。「スクォンクの涙」みたいなポストロック感あるものを昔のポップスの要素と現代の海外インディポップの要素とを取り込んでアップデートした、結果としてすごく2013年的なポップスになっている。驚いたよこれ。そして公式に上がっているライブ映像見たらこれまた凄い。
チェロボーカルだったYukkoはギター弾いたり(これは結成初期にもやってたし何度かライブでも見たけど)シンセ弾いたりでマルチプレイヤーになってるし、公式に上がってる新曲を演奏したライブ映像のメンバーの気迫はなんかすごい。これもまた紆余曲折を経たゆえの音なんだろうなあ。
このアルバムを経て、「Hi,How Are You?」の音もアップデートされている。
これオリジナルより抜群に良くなってるよ。このバンドはまだまだこれからだな、と思わせてくれたアルバム。チェロはないけど、それ以外ののあのわ成分は確かに残っていて、それが純度を増した分物凄く迫ってくるものがある。昔とは違うけど、これもまた凄く探究心に満ちた彼等らしいアルバムなんじゃないだろうかな。
というわけでここまでで6位。ここにも今と昔が交錯する音で区切りがつきましたね。なんか面白い。それでは次回、いよいよ厳選に厳選を重ねたトップ5の発表です……!!!
11月 30 2014
亀田音楽専門学校SEASON2のケーススタディをしてみよう〜#09「無敵のボーカル術〜相棒編〜」
毎週恒例アップの亀田音楽専門学校のケーススタディ第9回です。いよいよ終盤が近づいてきましたね。これを含めてあと4回くらいでしょうか。
過去の記事はこちら。第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第1部の最終回
さて、第9回はゆず先生を迎えての「無敵のボーカル術〜相棒編〜。今回もスキマ先生の時のように二部制なのか…?
●講義の内容
J-POPでは同性デュオが凄く多い。このデュオでしか出来ないことを探ってみよう、というのが今日の趣旨。と、いうことでザ・ピーナッツ「恋のバカンス」、コブクロ「蕾」、猿岩石「白いくものように」、Puffy「アジアの純真」、ゆず「虹」が流れる。
男女デュオじゃなくて同性デュオだと何が良いのかというと、異性ではなくて同性だと出来ることがあるのだ。男女デュオとどう違うのだろうか。それは「おいしい音域」。男性女性それぞれにおいしい音域があり、異なっているのだ。J-POPで一般的な地声とファルセットの音域によると、女性はト音記号のどの部分から上2オクターブ分、男性はヘ音記号のドから上2オクターブ半くらいが出せる音。そのうち女性のおいしい音域はド~レ(1オクターブ上)くらい、男性はド(1オクターブ下)~ソとなる。そうすると重なる部分がド〜ソの半オクターブくらいしかない。逆に同性デュオなら男女どちらかのおいしい音域を丸々使える。つまり、おいしい音域を把握して音作りをするとなると、同性デュオの方が使える音が多いということなのだ。
同性デュオのボーカル術① ソロ
KinKi Kids「硝子の少年」が例として流れる。
ソロ(一人で歌うこと)によって、それぞれのボーカルのキャラクターがしっかり見えてくる。ゆず先生もそれぞれのキャラ、声質、おいしい音域を意識してそれぞれのソロを作っているとのこと。単純に歌い手が変わることでワクワク感が生まれる効果もある。
同性デュオのボーカル術②ユニゾン
狩人「あずさ2号」、Puffy「アジアの純真」が例として流れる。
ユニゾンとは同時に同じメロディーを二人が歌うこと。これにより、二人で歌うことで音量が倍になる。違う声質は混じり合うことで新しい魅力が生まれる。それがアーティストの名刺代わりもになる効果があるのだ。
ただ純然たる同性デュオって最近あまり出てきてないような…自分の観測範囲の問題かな?
同性デュオのボーカル術③ハーモニー
ゆず「栄光の架橋」
ハーモニーで世界が広がる。「メロディーの花束」によってお互いの声の個性が出る。ハーモニーすると気持ちいい。ただしやり過ぎると飽きるのでうまく量を調整することが必要。
ゆずが選ぶ同性デュオの名曲
柚子が最初には持ったのがこの曲
個性的なソロシンガーが合わさったときに凄く面白くなる、という例。井上陽水はソロが殆どなので奥田民生がそこにどう寄り添うのかが聞き所。
キャラとキャラのぶつかり合い。
同性ボーカルの応用編「歌い分け」
ゆず「夏色」
冒頭のAメロで歌い分けることで歌の情景や二人のキャラクターが見える。そしてBメロの「Ah」というコーラスが効いている。元々はゆったりとしたフォーク調の曲だったが、路上で飽きさせないための工夫をしてどんどん曲が変わっていった。「おおきな~」のところで拍がいきなり2/4になって煽ってくる(そしてまたすぐ戻る)ここで早めることで追っかけるが可能になった。ライブを通してどんどん変化して行っている。「ほぼスポーツですね(By亀田校長)」
総括
同性デュオはJ-POPの中でずっと愛されてきた無敵のグループ。歌のテクニックを使うと1+1が無限大になる。
●補足・コメント
桑田佳祐&Mr.Children「奇跡の地球」だけど、これでコラボしてから桜井さんは歌い方に桑田さんの影響が凄く見えてくるようになってきたよね。
音域のところは説明があまりちゃんと出来てないかもしれない。やはり図を書いた方が良いのだろうか…
●ケーススタディ
さてどうしようかなあと探し始めてから気がついたんだけど、僕殆ど同性デュオの曲聴いてなかったわ…ということで、変則的な形でバンドとシンガーのコラボという形で歌の掛け合いの妙を表現している物を二つ用意しました。楽しんで頂ければ幸いです。
カジヒデキとリディムサウンター「亜熱帯ガール」
2010年に発表された曲。カジヒデキがriddim saunterとコラボレーションしたユニット。リディム自体もボーカルのKeishi Tanakaが美しい声を持っているんだけどそれをほぼバックに使うというめちゃくちゃ贅沢なコラボ。この曲では主にハーモニー、ユニゾンでカジさんのボーカルを補強することに徹している。
彼等のライブを見られなかったことはここ数年でも割と大きな後悔です(全くスケジュールが合わなかった)。リディム自体が2011年に解散してしまっているのでもうこのコラボを見ることは出来ないんですな…
平賀さち枝とホームカミングス「白い光の朝に」
若手女性シンガーソングライター 平賀さち枝が、京都を拠点にするインディーズバンドHomecomingsとコラボして制作した曲。これは今年の曲なんだけど、ユニット名の付け方が「カジヒデキとリディムサウンター」に酷似しているのはリスペクトかオマージュかなんかなのかな?この曲では1番が平賀さち枝、2番がHomecomingsの畳野彩加によるボーカルで、メインボーカルと相棒の役割を入れ替えている。まあ一番シンプルな形ですよね。そして間奏のあとのCメロでまた平賀→畳野の順番で歌うんだけど平賀さち枝が最後のフレーズの辺りからコーラスを重ねてくるのが凄く美しい。
さて、次回は「タタタのリズム学」。三連符のリズムについて学ぶ訳ですが…あれ、ボーカル術の後編じゃないんだね。
By たにみやん • Music, 亀田音楽専門学校 • • Tags: Homecomings