6月 29 2014
解散から10年経った今、改めてCymbalsについて考える
音楽だいすきクラブの渋谷系特集に刺激を受けたわけではないけど、今年のどこかで書こうと思ってたから今がちょうどいい時期なんじゃないかと思って書いてみることにした。僕がトップクラスに好きなミュージシャンであり、10年前の1月に解散したバンド、Cymbalsについて。彼等がどんな存在だったのか、どう今に生きているのか、ということを考えたい。
●Cymbalsとはどういうバンドだったのか
解散から10年も経ったバンドなので知らないという人も多いと思われるので、簡単に。Cymbalsは土岐麻子(Vo.)、沖井礼二(Ba,)、矢野博康(Dr.)の3人によるバンド。1997年結成、インディーズで2枚のミニアルバムを出した後1999年にシングル「午前八時の脱走計画」でメジャーデビュー、その後4枚のオリジナルアルバムをリリースするも、2003年の「Love You」というアルバムのリリースツアー後に解散を発表。2004年の1月のラストライブを持って解散したのである。(結成までの経緯はこの文章をどうぞ)
彼等にはこれといったヒット曲はない。そしてチャートの最高順位は46位。売上だけ見れば結果が出てるとは言いがたい状況だが、解散後風化することなく、2000年前後の「ポスト渋谷系」のバンドとしては真っ先に名前が挙がるバンドの一つである。そしてインディーズデビュー15周年の去年にはタワーレコード限定ながらオリジナルアルバムが再発されたりもしている等一定の評価を得ている。
彼等の楽曲は、シンプルにいうと「ちょっと毒のあるかわいさに満ちた、若干パンク風味のギターポップ」だ。代表曲「Rally」なんかにはその辺のエッセンスが詰まっている。
かわいくてかっこいい。僕は本当にこういうの好きだなあ。そしてバンド構成のなせるワザか、ベースの音が凄い。殆どメロディ楽器のようなうねり方をしている。これも彼等(というか沖井サウンド)の大きな特徴。
●「渋谷系」の信奉者にして実践者だったCymbals
Cymbalsの音楽は基本的に沖井礼二の音楽だ。彼がほぼ全曲作曲し、大半の曲で作詞をしている。その彼は去年日本テレビ系の「東京エトワール音楽院」という番組に出演し、講師として渋谷系について語った。そこで彼は、「渋谷系ミュージシャンの中で最も衝撃を受けたのはフリッパーズ・ギター」と述べた上で、渋谷系を下記のように定義づけて、また、その渋谷系を織り成す特徴的な要素を3つ列挙している。
渋谷系とは、1990年代初めから半ばにかけて渋谷を発信地として流行した音楽・ファッション・映画・文学などから発信したサブカルチャー現象。
- 再構築
音楽を初め、ファッション・映画・文学・アートなど様々な要素を細かく切り刻み、組み合わせることで自分の感性で新しい作品を作り出すこと。例えば後期フリッパーズ・ギターなどに顕著に見られるサンプリングや音源コラージュなど。さらには、極めて直接的なルーツからの引用など。 - ポップアート
そもそもは1950年代に起こった雑誌や広告・マンガなどを素材として扱う芸術のこと。渋谷系ではそういったポップアートを曲自体の印象とも深く関連した斬新なCDジャケットなどに転用していた。特にそれを牽引していたのは渋谷系ミュージシャンの大半のアートワークやMVを担当した信藤三雄氏。 - 予定調和の拒絶
リリースする度にファンの予想を超えるスタイルの作品を発表すること。想像は裏切られるが、期待は裏切らなかった。例としては1993年〜1997年のコーネリアスのアルバムが出る物出る物全部違っていた、ということが挙げられた。
そして、Cymbalsは、その「渋谷系」の信奉者にして実践者だった。沖井礼二は60〜70くらいのロックが大好き、特にピート・タウンゼントを信奉している一方で、スタイル・カウンシル、ポール・ウェラーも敬愛している。それらのカバー なんかもシングルのカップリングなどでちょいちょい出していた(後に「RESPECTS」というカバーアルバムにまとめられる)くらいで、強烈に自分のルーツを打ち出しながらもそのエッセンスを上手くまとめ上げて、疾走感とおしゃれさを併せ持った独特な楽曲世界を構築した。
そして、ポップ・アート然としたCDジャケットも、彼等は真正直に実践した。デビュー後3つのシングルCDのジャケットに良く表れている。
因みに2枚目の「Rally」には本人達が写っているが、他に本人達の写真がきちんと表面に写っているCDはラストアルバム「Love You」くらいだ。(一応他にも2枚あるけど顔が写ってない)。センスは完全に渋谷系のノリそのままだ。
そして、予定調和の逸脱、という観点からは彼等の3枚目のアルバム「Sine」が挙がる。上記に挙げた「Highway Star, Speed Star」を収録した2nd「Mr. Noone Special」から2年おいて発売されたこのアルバムはギターポップ路線から離れ、打ち込みを大胆に活用しながらCymbals特有の疾走感とセンスを兼ね備えた作品だった。まさに予定調和の逸脱。
https://www.youtube.com/watch?v=HBp96UwY_Es
●逆風の中を駆け抜けたCymbals
Cymbalsは「遅れてきた渋谷系の実践者」としてシーンに飛び込んだ。しかし、その当時のシーンは彼等にとっては逆風としか言いようのないものだった。要因は大きく二つ。渋谷系自体が退潮していたことと、ロックバンドの音楽傾向が変化する時期にあったことだ。
渋谷系自体が1995年頃を境に退潮していき、1998年には完全に終わってしまってたことは様々なところで指摘されていて、ライターの柴那典さんは「ディーヴァの登場」により終わった、としている。Cocco・椎名林檎・MISIA・宇多田ヒカル。確かに、自分で曲を書き、「自分の歌唱能力」を武器に直球勝負を仕掛けた彼女達は、「引用」と「再構築」をモットーとした渋谷系的なアプローチとは対極のものだった(もちろんディーヴァ達の歌が完全オリジナルだった、というわけではないけど)。
しかしそれ以上に重大だったのはバンドサウンドの潮目が変わったことなのではないだろうか。先日VIVA LA ROCKのレビューしたときに取り上げた「オルタナティブロックの社会学」では、「97世代(NUMBER GIRL、くるり、SUPERCAR)とエアジャム勢の台頭が日本のオルタナティブロックの幕開けであり、音楽を「見て、聴くもの」から「体感し、体を動かすもの」に変えた」としている。そして特に97世代の音はアメリカ・イギリスのインディーシーン直系のサウンドだ、と。そう考えるとオールドロックからの引用・再構築をするCymbalsの居場所は無かったと言えるだろう。あったとしても、それは小さい場所だった。
そんな中でも彼等は自分たちの地位をきちんと確保した。同時代の仲間バンド達よりも言及されることが多いのはその証左だろう。しかし、バンドを続ける中で方向性の不一致が段々目立つようになってくる。土岐さんは後に「だんだん3人の思うところが一致しなくなった」と明言しているし、沖井さんも当時のCymbalsが自分のワンマンバンドであり、意見の不一致が容易に起こる環境だったことを示唆している。
その辺は解散した後のCymbalsへのスタンスにも通じるものがあるんだけど、4thアルバム「Love You」を置き土産に彼等は解散した。ラストアルバムは、4枚のアルバムの中で最もコンセプト色の薄い、まるで当時の彼等を象徴するかのようなバラバラなアルバムだった。
●現代に生きるCymbals
解散後、各々はソロ活動に入る。正確に言うと、活動が評価されてたためかバンド活動後期辺りからそれぞれがソロ活動を始めていた。
土岐さんはソロシンガーとしてデビュー。最初はジャズカバーしたりラウンジ・ミュージック感の強いおしゃれな女性ボーカリスト、って感じだったんだけど、だんだん80年代シティポップ志向を強めていってる。
沖井さんはCM音楽(「NOVAうさぎの歌」の作曲にも参加)を作ったり同世代ミュージシャンとバンド「SCOTT GOES FOR」を結成したりする一方、さくら学院バトン部TwinkleStar・竹達彩奈のプロディースなども手がけ、花澤香菜への楽曲提供も。しかしどの曲もCymbalsっぽさが強いという業のようなものを感じる。いや、大好きなんだけどね。ソロプロジェクトFROGはそんな彼の個性が存分に発揮されててとても良い。
矢野さんは市井紗耶香のソロの編曲やハロプロフォークソングカバー集のプロデュースをするなどした後、南波志帆を全面プロデュース。沖井さん同様花澤香菜に楽曲提供してるし、土岐さんにも楽曲提供している。また、親交の深いミュージシャンを集めて年に1度「YANO FES」を開催。
そして、解散してから10年も経つとCymbalsのDNAを継いだチルドレンも出てきたりするもんです。まずは、かつてこのブログでも紹介したOK?NO!!。Bandcampで発表された1st Albumで「Beat Your Cymbal!!」というズバリな楽曲を、2nd「Party!!」では「Meat Spa」というCymbalsリスペクトの曲を出している(Cymbalsの最初の名前が「Spaghetti Charlie」であったこととかけている)。
そして、渋谷系Meets高速P-ファンクなカラスは真っ白。彼等もまたCymbalsを愛好している(ただし、愛好しているのは最近になってからで、Cymbalsに似ていると指摘された「ハイスピード無鉄砲」は彼等を知らない頃に作ったらしい)。ベースの強さもCymbals然としてて、沖井さんもアルバムにコメントを寄せたりしている。
しかしながらアルバムのリード曲以外の、あまりアッパーでない曲にCymbalsのミディアムチューンとの相似形を感じたりする。
昨年Cymbalsのリイシュー版が発売された際の土岐さんと沖井さんの態度の違い(自ら店舗を訪れて展開を写真撮ったりする沖井さんと、連絡もサンプル版送付もなかったと愚痴を言う土岐さん)を見るに、Cymbalsの再結成の可能性というのは限りなく低いんだろうなと感じている。現に沖井さんはファンからの再結成の要望に対してこう答えている。
そりゃあ僕も一度もライブ行けなかったから見たいとは思うけどさ、彼等が音楽的にきっちりと功績を残しててそれを汲んでいる後発バンドが出てきてくれてるんだから良いじゃないですか。それこそが、Cymbalsの楽曲が素晴らしく色褪せないものである証左じゃないですか。そして、OK?NO!!のreddamさんが所属している吉田ヨウヘイgropuなどの東京インディーポップ界隈では、ふたたび再構築型・リスナー志向のミュージシャンが一群として表れ、脚光を浴びている(その中心にいたのはもちろんceroだ)のを見ると、これからもっと楽しくなりそうな気がしている。
僕は魔法を信じるよ。新しいバンド達の。
あ、でも沖井さんが「FROG3rdアルバム作る宣言」してからもう5年経ってることは忘れていませんよ。笑
2月 13 2015
Cymbals大好きな僕にとって2015年は最高の年になるかもしれない
佐々木敦さんの「ニッポンの音楽」を読んだ。そんでもってその発売記念のトークイベントにも行ってきた。話聞きながら実況ツイートした物をまとめたものがあるので読んでみてください。すごく面白かったので。
佐々木敦×柴那典×南波一海 「J-POP IS OVER?――佐々木敦『ニッポンの音楽』刊行記念イベント」 Tweetまとめ – Togetterまとめ
どうしても楽曲派の部分がクローズアップされがち(その日から24時間位ずっと通知がとまらなかった)だけど、その辺は「曲が好きで、アイドルが好きなんじゃない」みたいなスノッブな楽曲派に釘を刺してるんじゃないかという印象。でも本題じゃないのでここら辺にしとく。因みにScott & RiversとJ-POPの話は、僕のブログにも記事があったりします(NHKの番組に出てきたときの奴ね)。あと、アイドルバブルは弾けるけどAKB48チルドレンがまたたくさんアイドルを目指すという見立てはなるほどなあという感じだった。
本の感想についてだけど、前もツイートしたけど色々捨象しながらも一つの「史観」を作っていて読み物として面白かった(その辺りの偏りが出るよねって件はトークイベントの序盤で佐々木さん本人がその辺わかって書いている旨を話していた)。
はっぴぃえんど、YMO、渋谷系、小室哲哉、中田ヤスタカ。個人的にはアジカン(ゴッチ)やくるり(岸田繁)、なんかもリスナー型ミュージシャンなんじゃないのとは思ったりもするんだけど、確かにセレクトについては一貫性があり、繋がりを感じられるところである。
それで話の後半ではアイドルの話が結構出てきてたんだけど、佐々木さんは「自分はアイドルのことはよくわからないけど、アイドルの曲で面白い物はあると思う」という話をしていて、その中で□□□三浦さんや蓮沼執太が参加しているNegiccoの話に。
Negiccoのアルバムは上に挙げたメンバー以外にもShiggy Jr.、スカート、Orlandといったインディポップの最前線の人達もいれば田島貴男のようなまさに90年代渋谷系の体現者がいて、その間の世代であるNONA REEVESの西寺郷太、ROUND TABLEの北川勝利、Cymbalsの矢野博康などがいて、ここ20年くらいの日本における、「ニッポンの音楽」的な「リスナー型ミュージシャン」の一つの系譜がそのまま現れているアルバムだ。前作「Melody Palette」もそうではあったんだけど、マルチネ界隈から東京インディー方面にシフトチェンジしている所なんかから人選の一貫性みたいな物は高まったとは感じるところである。個人的にはこのアルバムは前作同様良いよね位の感じなんだけど、それでも良い作品だと思うしさっき言った文脈からしてもとても重要な作品だとも思います。
そんな中、(発売が他より1日早い)Negiccoのアルバムをゲットした翌日にOK?NO!!の初CDアルバム「Rhapsody」をフラゲしたところ、これまた最高すぎた。
彼等は大学でCymbalsのコピーバンドを結成したところから始まっている(しかもCymbalsと同じ早稻田大学でだ!)。ということもあり、とても直球なまでにCymbalsのフォロワーであるということは以前書いた通りで、紛れもなく彼等も「リスナー型」のミュージシャン(特にボーカルのriddamさんは吉田ヨウヘイgroupにも所属し、ギターで作曲担当の上野翔さんは毛玉など複数のバンドに所属)だ。過去にbandcampで発表していた2枚のアルバム等からの曲をリアレンジして再録しつつ、新曲沢山でまとめ上げたのがこちら。収録時間が30分位というのもまさにCymbalsの作品っぽさを感じさせるところであり、こだわりを感じるなあと。
とはいえ、表題曲「Rhapsody」なんかはひねくれた感じ(「Straight」でまさに「ひねくれた私」と歌っている、まさにCymbalsが持っていたイメージそのものである)とは真逆の、暖かみのある歌詞とアレンジという、彼等のオリジナリティみたいな物が感じられ、単純なCymbalsのフォロワーというわけではない2010年代型ギターポップとして一つの形を作れたんじゃないかな、という印象を抱いた。SoundCloudに上がっている初期バージョン・TOKYO ACOUSTIC SESSIONでやったバージョンなど、どれと比較しても暖かみと明るさがグレードアップしている。
Rhapsody=狂詩曲=叙事的な歌なわけだけど、歌の内容は二人の日常というか半径5メートルくらいにフォーカスした超ミクロな内容というのが良い。敢えて言えば、それ自体が彼等の「ひねくれ」だったりするのかもね、とか。
そんな感じで2枚のアルバムを聴きながら「OK?NO!!も良いしNegiccoも良いし今年も楽しくなりそうだね〜」とか思っていたら、翌日(OK?NO!!のCDの発売日である1月21日)にCymbalsのリーダーだった沖井礼二さんが、2012年から歌手活動を休止していた清浦夏実をボーカルに迎え新バンド「TWEEDEES」の結成を発表。いきなり新曲を公開して配信販売まで始めるという急転直下の展開。すごい巡り合わせだな!そんでもって早速MV見たらこりゃあすごい。
原色の背景に次々変わる衣装なんてまるで渋谷系じゃないか!!って感じだけど、音も本当に沖井サウンド以外の何物でもない。サビ終わりに挿入されるコーラスや動画終わりの(サビ後の)ピアノの入り方なんかはこれまでCymbalsやFROGなんかで何度となく見てきた形だ。それだけでもうツボに刺さるし、そして最高だと思ってしまう。そしてこの音を待ち望んでたんだよなあと言うことを改めて実感する自分に気付く。FROGの3rdアルバムずっと待ってたけど、これがあれば当分それは言わなくて良いなという気になってくる。
※余談だけどFROGの1stアルバムはもう3年くらい前に沖井さんの手元にすら在庫がなくなってしまった、という状態なので、iTunesからゲットしてください。超名盤です。2ndもいいんだけどね。
先頃アルバムの全曲試聴も公開されたわけだけど、全体的な印象とかはCymbalsよりもFROG以降というかパンク要素は比較的押さえられていて割と素直なギターポップになっている感じ。そんでもって3曲目「月の女王と眠たいテーブルクロス」なんかでは歌詞に「シンバル」なんて入れちゃって(因みに沖井・清浦が公式に共演しているおそらく初めての曲である竹達彩奈「サーフでゴゴゴ」でも歌詞に「Cymbals」と出てきたりする。)。なんだけど全体的にはバラードもあったりで緩急付いてる感じで、FROGやSCOTT GOES FORのような本人主体のだけでなくさくら学院バトン部Twinklestars・竹達彩奈辺りのも含めた沖井礼二ワークスの集大成というか成果発表とも言えるような作品であるように思う。清浦さん(この機会に過去の曲聴いてみたけどすごく良い声ですね!)も「私の20代後半をこのバンドに捧げます」と宣言してたりで、活動はかなり活発になりそうな予感で期待出来る。
3月15日にOK?NO!!のレコ初ワンマンライブがあって、3月18日にはTWEEDEESのアルバムが発売される。大学生の時から大好きな(かれこれ15年くらいか!)サウンドがまだまだアップデートされて新鮮に聴き続けられるというのはとても嬉しい話だし、2015年最初の3ヶ月だけでこんなに楽しいことがあっていいんだろうか。いや、その先にはきっとそれを超えるもっと楽しいことがあるはずだ。この2者の共演とか。なーんてね。笑
By たにみやん • Music • • Tags: Cymbals, Negicco, OK?NO!!