4月 25 2014
「Jazz the New Chapter」を読んで日本のポップスについても少し思いを馳せた
まずはお知らせです。このブログでも頻繁に取り上げている「レジーのブログ」を執筆しており、会社員と音楽ライターの二足のわらじを履いているレジーさんが作成した「レジーのポータル」というサイトで、お勧めJ-POP曲のプレイリストを書かせていただきました。僕が掲載させてもらったのは「someone’s playlist」という所謂ゲスト枠ですね。今後も不定期にプレイリストをアップしますが、初回を飾れて光栄です。レジーさん、どうもありがとうございます。
さて、今回僕は「J-POPのJはJazzのJ!?JazzyなJ-POP13」ということでジャズ風J-POPを13曲紹介しました。その話に絡んで、最近個人的にジャズブームが来そうになっているのでその話を。
きっかけは1冊の本。
Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)
「コルトレーンの時代にヒップホップやYouTubeがあったら、ジャズは別物になっただろう。そんな時代に生まれたのが俺たちの世代だ」という口上、そしてこの本で書かれているのはジャズとじゃ髄外の音楽の交錯する様。著者の柳楽さんのツイートがRTで流れてきて、即刻買うことを決心した。
「非ジャズリスナーのためのジャズ本」なんて、僕みたいな奴(上記のプレイリストを作ったりする位ジャズのサウンドは好きだけど熱心なジャズリスナーとはほど遠い奴w)こそ読むべき本じゃないですか!しかしその時にはどこも売り切れで増刷を待つしかなかった…
というわけでオンライン書店で注文してから待つ間に当のロバート・グラスパーの曲を聴いてみることに。そう、サブタイトルにもあるようにこの本は、2012年に「Black Radio」という作品でジャズ界に大きな衝撃を与えたロバート・グラスパーを軸に、現代ジャズの新しい動きを切り取った本。なので数多あるジャズ本みたいにマイルスやコルトレーンをきちんとおさえて、みたいな感じではない(ただし幾分かはジャズの用語を知っていた方が読みやすいのは言わずもがな)。そこで聴いたのは「Black Radio」のフルサイズ試聴なんだけど、かなり驚きだった。具体的にはアルバム最終曲のこれを聴いていただくのがいい。
ニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」ですよ。決してMAN WITH THE MISSIONのではないですよ。それはさておき、コンセプトアルバムというわけでもないのにジャズのアルバムでこの曲を選ぶというのが、想像の斜め上だった。そして確かにジャズなんだけど、R&Bやヒップホップっぽさも同時に感じる。ここにグラスパーの特徴が凄く出ていて、彼はジャズもロックもヒップホップも分け隔てなく聴いてきて、それをアウトプットしているのだ。ビョークやレディオヘッドを愛聴し、コモンをカバーする。それがロバート・グラスパー。
てなわけで、この本で書かれているのは、「様々なほか音楽ジャンルと交わり進化しようとしているジャズの現在地点」というわけで、様々なミュージシャンが挙げられている。ロバート・グラスパーのバンドメンバーはもちろんのこと、オバマ大統領のノーベル平和賞受賞授賞式でコンサートをやって一気に有名になったエスペランサ・スポルディング(クラムボンのミトさんも彼女のファンだ)なんかもその一人だ。
彼等彼女達世代の特徴みたいな話も出ていて、「今日日のジャズミュージシャンは大学出が多く、ある種「お前どこ中?」みたいな感じになっている」「教会でジャムセッションして腕を磨き、大学に入って作曲技術を学ぶ」という話が面白かった。
あと彼等について凄く好感を持ったのは「長いソロの否定」。実際に会社の先輩にジャズバーに連れて行ってもらったりとかして苦手だと感じたのはソロが長すぎてだれることだった(それゆえにジャズ風J-POPをよく聴くというのがある)。サウンドはすごく好きなんだけどその格式張った感じが好きになれない、というところもあったので、より自由な音楽として前に進めようという気持ちは僕は支持したい。
というわけで、この本を起点に色々辿っていける感じで面白い。取り急ぎグラスパーの「Black Radio」「Black Radio2」とエスペランサの「Radio Music Society」は注文済みなんだけど、これまた品薄により取り寄せ中で、この文章を書いているときにちょうど発送通知が来た。週末聴くのが楽しみ。
と、本の内容についてこれ以上はジャズの熱心なリスナーでない僕には語れることはないんだけど、この現代ジャズ界の動きって、J-POPが過去から貪欲に色々な音楽を吸収してきたのと共通するところはあるのかな?と思った。ことジャズとの接近の話をすると、歌謡曲はジャズがルーツになっているし(江利チエミが「カモンナ・マイ・ハウス」の日本語版を歌ってそれを土岐麻子がカバーしたり、とか)、東京スカパラダイスオーケストラはヨーロッパ最大のジャズフェスであるモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演したりしている。それ以外にもたくさん挙げられるよね、ということをあのプレイリストに込めている節も少しある。
と思いを馳せながら読み進めていたら、筆者の中に吉田ヨウヘイgroupの吉田ヨウヘイさんの名前が!!僕が大好きなバンドOK?NO!!のriddamさんも最近参加していて、独特のリズム感とそれこそ様々な音楽のエッセンスを取り込んだ音楽は聴き心地良くて、そして僕好み。
どうやら吉田ヨウヘイさんはジャズ・SSW・レアグルーヴ等を専門に扱うWebレコードショップ「メリトカリ」の店員さんなのだそうだ。そして吉田ヨウヘイgroupも包括される東京インディーズシーンでは最も人気のあるceroもまた、この流れの影響下にいる。昨年発売のシングル「Yellow Megus」の発売にあたって行われたオフィシャルサイトでのインタビューでロバート・グラスパーからの影響を公言している。そしてフロントマン高城晶平はQuick Japanで行われたtofubeatsとの対談でより端的に語っている。
インタビュアー:ブラック・ミュージシャンに関しては、ディアンジェロ(90~00年代に活躍した伝説的な米国のネオ・ソウル・ミュージシャン)が参照点になってるとか?
高城:そもそもはディアンジェロから始まって、ロバート・グラスパー(R&B系ピアニスト)とか色々……クリス・デイヴ(同じくR&B系ドラマー)って人のドラムとかも面白いと思って。僕らは「見えないポリリズム」って呼んでるんですけど。こういう人たちが使っている、異なるノリのものが一緒の流れに乗ってるっていう手法を、生でやってみたかったんです。tofuくんの曲にもそんな感じの曲がいくつかあるし、最近の日本のヒップホップ、ブダモンクとかのトラックからも感じてて。最近、00年以降のR&Bとかヒップホップの、ちょっとアブストラクトなノリみたいのがわかってきて、これを今の日本語の音楽でやれたらいいなって。
ロバート・グラスパーとクリス・デイヴをR&Bと記載しているのは「Black Radio」が2013年のグラミー賞で最優秀R&Bアルバムになったから(因みにこの年の最優秀ジャズアルバムはエスペランサ・スポルディングの「Radio Music Society」だ)なのでご愛敬として、上記の発言を踏まえながら「Yellow Megus」を、特にドラムに注目しながら聴くと、より面白い。
そしてそのceroのダイレクトな受容の仕方にちくりと一刺ししているのはシャムキャッツ。彼等もまたthe sign magazineでのニューアルバムにまつわるディスク紹介で「Black Radio」を挙げつつ、こんなことを言っている。
大塚「俺は、結構普通なんですけど、ロバート・グラスパーの『ブラック・レディオ』。取りあえず、1枚目に推そうかなと思って。今の感じっていうか、流行りものすごい好きなんで、俺は意外に(笑)。あのカッチリしたフィーリングは正直、今のメインストリームだと思うし、あの感じをさらにマッシュアップして、取り入れたらいいだろうなって思って。でも、その取り入れ方として、ドラムのクリス・デイヴのフィーリングをドラムの人がやったらつまらないだろうな、と思って。まあ、別にceroを批判するわけじゃないんですけど」
●でも、それ、結構ジャストな分析だな(笑)。
菅原「でも、『ceroにどう勝つか?』っていうのはすごい考えるよね」大塚「勿論、俺もああいうフィーリングを出す人達は好きだし、ああいう風に出したいって素直に思うほうなんですけども。それをドラムには求めずに、俺一人でやるっていうのが面白い」
シャムキャッツのニューアルバムも音が締まってて良かった。それにしてもcero、大きくなったが故にこの界隈では相当意識されているんだろうな。しかし色々なところで色々な物が繋がってて、それは日本だってそうで、決してガラパゴスではないよということがわかる。そして、ロバート・グラスパーが前に進めたジャズをまた日本のポップス歌手は吸収してアウトプットしてるわけで、ほんとこの自由さは恐れ入る。ジャズも面白いし日本のポップスも面白い。
プレイリストにあげたような音楽は基本的に「これまでのジャズ」の意匠を持つ物が多いけど、現代ジャズの最前線も面白いことになってて、ホントどっちももっと聴きたい。この本、かなりお勧めです。
そんなわけで3年くらい前は全然ダメだったブラックミュージックも比較的聴けるようになっていきて凄く嬉しい。さて次回も一応ブラックミュージックについて、アングルを(超劇的に)変えて話をする予定〜。
6月 28 2015
cero「Obscure Ride」の次に聴きたい「今ジャズ・ネオソウル+J-POP」
ceroの2年半ぶり3枚目のアルバム「Obscure Ride」が今熱い。
元々古今東西の音楽ジャンルを縦横無尽に駆け巡り紡ぎ上げていく音楽性が特徴だった彼らだけど、2013年のシングル「Yellow Magus」以降、いわゆるネオソウルのようなブラック・ミュージックへの傾倒を深めていったのは周知の通り。その辺の影響度合いについては前にも書いているのでそちらを参照してほしい。個人的にはその辺りで深掘りしたこともあり、今回のアルバムに特別に新規性を感じているわけでは無い(というか「Yellow Magus」が出てから先述の記事を書く時に既に新規性を感じてた)けど、アルバム単位で出されるとインパクトあるし、それに2014年末に発売されたD’Angelo & TheVanguard「Black Messiah」からの影響がダイレクトに感じられるなど、海外との同時代性という点でもインパクトのある作品だといえる。
というわけでこのアルバムの話をしようと思ったけど既にいろんなメディアで大量に出回っている(しかもレビューに関しては割と同じ内容が多い)ので今更僕が書いても仕方が無い。なので、彼らと同様に「今ジャズ・ネオソウル」的な物が好きな音楽愛好家として、ceroと同じようなアプローチに取り組んでいるミュージシャンを何個か紹介してみようと思う。
と、その前に今ジャズ・ネオソウルについて超簡単に紹介。今ジャズに関しては去年の春と秋に1本ずつ記事を書いているのでそれを見てくれれば良いのだけど、ネオ・ソウルというのは2000年前後くらいにアメリカで勃興した「ソウルミュージックにヒップホップのサンプリングやプログラミングの要素を加えつつ生演奏でグルーヴ感を獲得していく」アプローチの音楽のことで、昨年末に15年ぶりのアルバムをリリースしたディ・アンジェロやエリカ・バドゥなんかがその代表として挙げられることが多い。中にはJ・ディラのようなトラックメイカーもその中にくくる人もいたりと音楽的に明確な定義があるわけではない。そんでもって上記のアプローチは今ジャズ勢も取っているのでロバート・グラスパーやホセ・ジェイムスなんかもネオソウルだという見方をする人もいる。まあグラスパーなんかはJ・ディラにめちゃくちゃ影響受けているしエリカ・バドゥをゲストボーカルに迎えたりしているので連続したものとして捉える見方ってのはまあアリなんだろうな、という気がする。
ざっくりとした特徴としてはサンプリングで作ったビートを人力で再現しようとするために変拍子/ポリリズム・リズムのヨレなどが多く見られるということ。それを不自然な物ではなく、気持ちよいグルーヴとするのがこういった楽曲のキモでしょうな。
●Emerald
さて1つ目は昨年CDデビューしたEmerald。このバンドの出自というか抱えているストーリーについては下記の記事をご一読頂ければ。
『音楽を、やめた人と続けた人』最終話:「音楽を続けた人」は、それでもやっぱりバンドをやめない – 連載・コラム : CINRA.NET
ロバート・グラスパーが好きというメンバーがリアルタイムなブラックミュージックを聴く中から紡ぎ出されていったアンサンブル。とはいえ湿度高い感じではなくかなり洗練された形に落とし込まれているなあというのが率直な感想。アルバムも構成がかなり練り込まれている感じでとても良いですよ。
●SANABAGUN
以前このブログでも紹介したSANABAGUN。ヒップホップを生バンドで再現という所でやってること自体思いっきりネオソウルのそれなんだけど、DJプレイによるスクラッチや揺らぎなんかも落とし込んでいるところが他にはない特徴として挙げられると思う。渋谷で頻繁にストリートライブをやっている。
●入江陽
「ネオソウル歌謡」と銘打っている入江陽。今年出たアルバム「仕事」、とても良かったです。Emeraldよりもうちょいブラック寄りな感じで、適度な湿度感のあるサウンドで心地よい。「ミュージック・マガジン」の「ceroと新世代シティ・ポップ」特集で新世代シティポップの一つとしてディスクレビューが掲載されていたけど、山梨や鎌倉(曲名に入っている)はシティなのか、という疑問が思い浮かぶ。笑
あとゲストで女性ボーカルが参加している曲が総じてかわいい!笑
●CICADA
今年の2月に発の全国流通盤「BED ROOM」をリリースしたCICADA。先日初めてライブを見た際に「この人力ドラムンベース、思いっきりRobert Glasper Experimentっぽい」ってTwitterで言ったらドラムの櫃田さんに「その通りです!」と言われるという心温まるやりとりが早速あった。その場でCDも即買いしたわけだけど、何で僕これ買ってなかったんだろうって言う位にどんぴしゃではまってます。リードトラックの「Naughty Boy」なんかもそういったタイプの楽曲なんだけど、ただ手数が多いだけのドラムにならずに落ち着きのあるグルーヴにつながっている。
ここで挙げた中では唯一の女性ボーカル。どことなくparis match辺りを連想させるセクシーな歌声も良い。
●それ以外・まとめ
バンド・作品全体で、というのではなく、単曲のアプローチなんかもあったりする。サカナクション「さよならはエモーション」なんかもそうだし、Negicco「BLUE, GREEN, RED AND GONE」なんかもそうなのかな?と思わせるような所がある。
ここ1年くらいは特にこういうビートがお気に入りであり、やっぱりそのきっかけはceroの「Yellow Magus」だったよなあと思ったりするところなんだけど、当分はこういった感じのをいっぱい聴きそうだなあという感想。夏にはサマソニでディアンジェロも来るし、もっともっとこの辺盛り上がって色々面白い物が出来てくることを期待したいところ。
By たにみやん • Music • • Tags: cero, CICADA