12月 1 2013
「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#09 「ダメ押しのメロディー学」
年も押し迫りつつあるところで、毎週恒例、NHK Eテレの亀田音楽専門学校ケーススタディ第9回目です。なんというかもうあと4回で終わりなので、年間ベストをまとめる作業と並行しつつもう一踏ん張りと思う次第。一応今までケーススタディはミュージシャン重ねずにやってるのでそこを継続できるかが個人的ポイント。
さて、これまでの回のケーススタディはこちらから。ここだけでもずいぶんな量になってきたなあ。
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#01 「おもてなしのイントロ術」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#02 「アゲアゲの転調学」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#03 「無敵のヨナ抜き音階」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#04「大人のコード学」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#05「七変化のテンポ学」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#06 「韻をふんだっていいんじゃない」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#07 「ツンデレのシカケ術」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#08 「フライング・ゲットのメロディー学」
さて第9回「ダメ押しのメロディー学」。前回に引き続きメロディーがテーマ。そして今回から講師はJUJUさん。例により前半は講義内容を要約して、後半はその内容に従ってケーススタディということでその手法が実際に使われている曲を解説するという形で。
●講義の要約
今回のテーマはJPOPにおけるダメ押しのテクニック。「大サビ」と「一行返し」の二つを扱う。
ダメ押しのテクニック①「大サビ」
大サビとは、曲の後半に最後のサビに導く別のメロディー。まず例として出てくるのは、いきものがかり「風が吹いている」。大サビは結婚式出たと得るとお色直し。起承転結の「転」の役割。尺の都合などでカットされることが多く、有名曲でも一曲丸ごと聴いていないと意外と気付かないことがある。歌い手サイドとしては、一番のサビと最後のサビとは感情が違うため、大サビは最後のサビという高い盛り上がりへ飛んでいくための踏み切り板のようなものである(第2回で出てきたようなサビへのジャンプ台と同じ役割)。
ここで、大サビのある曲をいくつか紹介。サザンオールスターズ「涙のキッス」、小泉今日子「あなたに会えてよかった」、小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」(第5回で登場したテンポを半分にするテクニックを使ったところ)。
大サビは洋楽にはあまりない。洋楽にはVerse(メインメロディ、平唄)とChorus(サビ)の繰り返しという物が多い。そしてVerseで全て言い切ってしまっているのでChorus部分が大きく盛り上がるようになっている。そこでJPOPではその洋楽のChorusの別メロディによるドラマティックな感じを大サビに取り入れた。起承転結の転の部分を求めている。また、日本人の奥ゆかしさ、いいたいことを少しずついう心から生まれたのがこの大サビという手法なのではないか、とのJUJUさんからのコメントも。
JUJUが選ぶ大サビを使った名曲
- Mr.Children「Tomorrow never knows」
大サビのあとに転調して音が飛ぶ。カラオケで盛り上がる。 - 椎名林檎「ギブス」
抽象的な歌詞から「また4月がきたよ」といきなり具体的なメッセージを切り出す。メロディと歌詞が襲いかかってくるかのような大サビ。 - YUKI「JOY」
「○○したい」「〜〜したい」と直接的な欲求表現の多い歌詞から大サビで抽象的な歌詞への変化。全く違うタイプの言葉を使って聴き手似考えさせることで曲に引き込むことができる。
ダメ押しのテクニック②「一行返し」
DREAMS COME TRUEの「未来予想図II」で最後に「ほら 思った通りに かなえられてく」と繰り返すところ。これが「一行返し」。サビの最後にもう一度同じ言葉とメロディーを繰り返すテクニック。とてもありふれたテクニックだけど、ここが一番の泣かせどころ。結婚式で例えるとお手紙を渡して(最初のフレーズ)→花束贈呈(繰り返したフレーズ)。JUJUさんいわく、最初のフレーズと2回目のフレーズでは気持ちが変わってくるとのこと。例えば最初は相手に向かって歌い、2回目は自分に向けての決意として歌うなど。
校長とJUJUで作った「守ってあげたい」ではこの一行返しを更に押し進めて、同じメロディーだけど語尾を変えていき、力強くなっていくが最後にやわわらかくなる、という効果を出している。
結論
大サビは、サビのメロディーを何度でも聴いていただくための、大きなジャンプ台による日本人ならではのおもてなし。一行返しは奥ゆかしい日本人ならではのまだいい足りないかもしれないと思うことを伝えるための気持ちの伝え方。この二つがあると、名曲度が上がる!
●ケーススタディ
例により二つずつ選定しますが、しますが…
大サビを使っている曲
ていうか大サビってCメロのことだよね。 僕はずっとそう思っていて「大サビ」っていうのは最後に大きく盛り上がるように配されたサビだと思っていたんだけど。さっくり検索したところやはりCメロ優勢だったけど大サビをこの意味で使っている例も少なからずあるっぽいので、基本的にここでは表記の問題くらいだったらこの前のキメの話みたいに番組内容にツッコミを入れたりせずに、番組での定義に沿って大サビということにして話を進めようと思う。
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソラニン」
今年デビュー15周年を迎え、横浜スタジアムで2DAYSライブをやるに当たってファンからの人気投票に基づいた選曲でライブをやったんだけどその時見事ファン投票1位だったのがこの曲。でも確かメンバー自身の順位付けでは40位だったんだよね。まあそもそもこの曲が浅野いにおのマンガ「ソラニン」の作中に歌詞だけあった物に対して映画化のために曲をつけたある種の企画物みたいな位置付けの曲だからそういう扱いなのは仕方ないと思う。しかしそれが1位であることについてはファンの間では物議を醸していたね…多分会場にいたファンに限定したら結果はまた違ったと思うんだけど。
とはいえそういう企画物でも決して手を抜かないのがアジカンのプロフェッショナリズム発揮といったところで、その中でも特に秀逸なのが2:48からの大サビとその後たたみかけるような最後のサビへのドラマティックな展開。これはまさに大サビを配したことによる効果だと思われるところ。まあ原作補正もあるだろうけど、曲自体もしっかりしてるから不動の人気を得るに至ったんだろうね、と(熱心なファンにとっては複雑なのもまたわかるけど)。
因みにこれが収録されてる「マジックディスク」はほんと良く聴いたなあと。このアルバムが出た頃アジカンはいろいろとソーシャルメディアを活用した実験にトライしてたのを凄く思い出す。
http://youtu.be/QpYkbmAcI6E
ももクロには「オレンジノート」「乙女戦争」などの大サビが素敵な曲が多数あるんだけど、その中から敢えてこの曲を選択した理由は大サビが二つに分かれている、ある種の「Cメロがあって更に大サビがある(もしくは大サビの間に間奏が挟まっている)」異常な大サビを持っている曲だから。作曲がヒャダインだからまあこういう異形の曲になることについてはそこまで驚きはないんだけど、なかなか凄い。まずこの動画だと2回目のサビが終わった3:23から今まで存在しなかったメロディーが始まる。そして4:13位から間奏に入って、4:57からまた違うメロディが登場する。そして5:14から最後のサビに入る。そして最後に「灰の中のダイヤモンド〜♪」のところで一行返しを4回も入れてくる(しかも歌詞を変えてメロディ繰り返してる)。まさにヒャダインって感じの、バラードだということを感じさせないダメ押しのてんこ盛りっぷり。いや、メロディーいいから好きなんだけどさ。
というわけでこれ今年出た「5TH DEMIENSION」の締めの曲なんだけど、ヒャダインが作曲だけだったのが不思議なところ。編曲もやったらどうなってたんだろうか。
一行返しを使っている曲
さっき「灰とダイヤモンド」で一行返し出てきたしまあいいかなと思ったんだけど、せっかくなので逆のタイプの曲を紹介しておく。ところで直球の同じフレーズ繰り返しパターン、そういえば最近は逆に見ないかもとか思った。
南波志帆「水色ジェネレーション」
http://www.youtube.com/watch?v=Lq9Iw-ziVbs
南波志帆のメジャー1stフルアルバム「水色ジェネレーション」の表題曲。当時19歳のみずみずしさを充分に表現しきった曲。この曲も大サビがあったりするんだけど、それよりも注目なのは4:03辺りからの一行返し。「(泡に)なってはじけるの」と「手のひらの上」が同じメロディなんだけど、一行返しした瞬間に曲が終わる。ダメ押しするだけしてあっさり退く、引き際の美学みたいなものがある。「灰とダイヤモンド」がくどいくらいに一行返しを繰り返し、その後も余韻を残すようなフィニッシュをしていたのに対して、ものすごくあっさりしている。
このアルバムからは南波ちゃんの魅力がかなり伝わってくるんだけど次作が微妙だったかなあという感じがするところで、それもあったのか今年彼女は自分のレーベルからCDを1枚もリリースしていない(タワレコ限定CDへの歌唱提供があるくらい)。ライブ活動は盛んにしているのでそんなには心配してないんだけど…
番組内で紹介されていたようなアクロバティックな一行返しも探していたんだけど、なんかそれっぽいのありそうでなかった。うーむ。
あと余談なんだけど、「潮騒のメモリー」の最後の「マーメイド〜♪好きよ〜♪嫌いよ〜♪」のところも典型的な一行返し。 やっぱりこうやってダメ押し感があるだけに水色ジェネレーションのあっさり感は逆に新鮮さあるよね。
まあこの前の暦の上ではディセンバー(因みに今日からですね)でのシンコペーションの多用といい、大友さんはJPOPの特徴やセオリーをかなり研究した上で曲作りしたんだろうなあというのを感じるところで。
さて、次週もJUJUさんとともに「玉手箱のマイナー術」。またまた苦手なコード・音階の話題ですよ…がんばります。
2月 21 2014
彼女は倍速(が良い)〜ディスクレビュー:ナンバタタン「ガールズ・レテル・トーク」
南波志帆とタルトタタンのコラボユニット、「ナンバタタン」のファーストミニアルバム。
ガールズ・レテル・トーク
南波志帆ファンである僕としては、共催ライブからのユニット結成・アルバム発売の報に驚いたと同時に、「えっ、ソロ名義1年間ほったらかしなのに…?」という気持ちにもなった。そう、彼女はソロ名義の音源を1年以上リリースしていないのだ。去年リリースされた彼女が歌う歌はtofubeatsのアルバムの表題曲「lost dacade」とアニメ「夢見る森のアマールカ」に提供された「青の時間(羊毛とおはなとのスプリットシングルの形でタワーレコード限定発売)」の2つだけ。ライブは活発に行っているけど、単独ではなく主催の対バンイベントが殆ど。「10代のうちに日本武道館でライブをやる」という目標を掲げていたけどそれを達成できずに昨年20歳になった彼女は悔しさと申し訳なさをブログで吐露していた。何が良くないのだろう、これまでは僕もそう思ってた。そもそも10代のうちにソロ歌手で日本武道館公演をやるなんて殆ど前例もなく難しいにも程があるのだけど、それは置いといて人気の伸び悩み感はあったのでどうしてかな、という気にはなっていた。
ただこのアルバムを聴いて思った。もしかして今までの彼女のソロ楽曲はその魅力を十分に引き出せていなかったんじゃないか?ということに。それぐらいこのアルバムはいい。正直言うと全く期待してなかったんだけどその驚くべきかわいらしさに心を鷲掴みにされている。
タルトタタンは「テトラッド」を数回聴いた程度だけど、完全に西浦&真部で初期相対性理論みたいな感じの曲調だなあという印象を持っていた。ただしそんなにハマらず今回に至る。メンバーがもう2回も替わってしまったので正直相対性理論以上に匿名性の高いユニットになってしまっているような印象もある。ナンバタタンが発表されたこと自体もその2度目のメンバーチェンジと同じイベントでの発表だったことも期待値を下げてた一因かもしれない。
そんなわけで「西浦・真部サウンドと南波志帆?」みたいな認識で発売日までいたけど、蓋を開けたらそうじゃなくて、プロデュースはふぇのたすのヤマモトシュウ。驚きなのは昨年ようやく全国流通盤を発売したばかりのバンドが実験的新ユニットとはいえ他の、しかも新人でない歌手のプロデュースをいきなりすることになるなんて。しかし果たしてこの起用、結果的に超大当たり。ふぇのたすよりバンド色を強め、更に高速に。いきなり最初の曲の「ズレズレニーソックス」はBPM180弱のハイテンポナンバー。どちらかというと表題曲「ガールズ・レテル・トーク」よりもこっちを表題曲にしてほしかった。因みに表題曲は単曲で聴いたときはピンとこなかったけどアルバムの流れの中だと「ああ……いいね!」と思えた。
その後も更に早い「R.T.S.」、ミディアムチューンを2個挟んだあとにとにかく小節中に言葉を詰め込んだ歌メロの「コミュニケーション過剰です」、やはりBPM180弱の「彼女は留守電」、そして早い上にサビで早口まで詰め込んだ「超スピードチューン」である「恋は倍速」と続く。この曲のサビはものすごいインパクトがあるけど、ここまでテンポを上げた曲に慣らされてることもあってすんなり入ってくるもんだ。そしてこの高速チューンを歌ってる南波志帆の歌声を聞いてて思い出したのは、南波志帆が古典的ロックの名曲をカバーするビルボードコラボアルバム「“CHOICE” by 南波志帆」のライナーノーツにてスパイス・ガールズの「WANNABE」のカバーについてRHYMESTERの宇多丸さんが言ってた話。
まさにそれがこれだ。彼女は倍速で歌わせるのがいい(すごくどうでもいいけどこの後「スラングも入ってる歌詞だけどそこも意味がわからず日本人がストレートに歌うと響きだけでかわいくなれちゃう感じ」といっていたプロデューサー矢野さんに「あんたはセルジュ・ゲンスブールかよ…」とツッコミを入れたくなった)。
http://www.youtube.com/watch?v=TbgyWFwTPcU
というか、彼女の楽曲でピンときてる曲はだいたいそこそこのスピード感があるんだよね。大名曲「水色ジェネレーション」、末光篤のピアノポップ「乙女失格。」、そして赤い公園の津野米咲が歌詞を書き元東京事変の伊澤一葉と共同でアレンジをした「ばらばらバトル(この曲はBPM180Overだ!)」。そもそも彼女は速い曲・早い歌との親和性が高いんじゃないかな。
そしてこれらの作品はアレンジに矢野Pが参画していない。Cymbalsのドラムとしては大好きだったのであまり言いたくないんだけど、彼のプロデュースワークは微妙だよなあと思う。市井紗耶香のソロとかもね…(モーニング娘。現役時大好きだっただけに結構がっかりした)
あと一時期の赤髪はなあ…「MUSIC」は曲も良くなかった。結果「乙女失格。」の方が水色ジェネレーションより売れてないんだよね。それもかなりわかりやすく。今の南波ちゃんめちゃめちゃかわいいだけに、ちゃんと良い新曲出してプロモーションで多少露出すればかなり引っかかる人多いと思うんだけど。「ちゃんと良い新曲出す」のが難しいのはわかってるよ…
そんな訳でかわいらしいポップスの一つの理想型みたいなこの作品なんだけど、あくまでもナンバタタンは「南波志帆+タルトタタン」であり、「南波志帆+葵+優希」ではない。というのは、タルトタタンの二人はこのアルバムで殆ど二人セットで歌っているのだ。一方南波志帆パートはコーラスは入らない。そのコントラストがまたこの作品に独特の味を付けてると思う。ヤマモトショウの仕込んだギミック盛り沢山でフックに満ちているものすごく面白いアルバム。今年聴いた作品の中では今のところダントツにオススメです。
By たにみやん • Music • • Tags: 南波志帆