7月 20 2013
レキシのライブに見えた「フェス→ワンマンライブ」の導線に横たわる壁
今月の頭に、レキシのワンマンライブに行ってきた。一昨年に本格的にライブ活動を始めた新代田FEVERからバンド形式でのライブには欠かさず行ってたところずっと人気に会場のキャパシティが全く追いついていない感じがしていた(チケットは常に即完売)のだけど、新代田FEVER(300)→LIQUIDROOM(900)→赤坂BLITZ(1500)ときて、今回Zepp Tokyo(2500)。今回一気にキャパ拡大。しかしながらそれでもあっさりチケットが完売したのはここ2年の夏フェス・ライブイベントへの積極的な出演で場を盛り上げてきた成果かな。直前で何度か追加販売したり当日券出したりしてたけど結局その本数はわずかだったみたいで入ってみれば普通に会場はパンパンで空調効かせてくれないと大変という状態だったり。
先に僕個人の感想を言うと今回も超楽しかった。まあなんというかレキシのワンマンライブは池ちゃんこと御館様をはじめとしてレキシバンドのメンバーもみんなスキル高いミュージシャンで(御館様以外に風味堂の渡和久こと元気出せ!遣唐使とヒックスビルの真城めぐみことお台所さまと、主役張れるボーカリストを2人もコーラスとして従えてる時点でまずすごい)、その人達が全力で音楽を使って遊んだらどうなるか、という典型例みたいなもんでして、もう大いに楽しかった。ネタ的には大奥の途中でセプテンバーを歌い出した瞬間に笑いが止まらなかったし、演奏面で言うと今回はお台所さまがいるからハーモニーがすごくて、やっぱり「ほととぎす」が一つのハイライト(間奏での悪ふざけも含めてw)。それからライブ初披露だった「隠れキリシタンゴ」がMC母上(Mummy-D)のラップ(譜面台思いっきり見てたけど)だけでなく演奏の切れ味がものすごくて本日のベストアクトだったと思う。
ところでそのライブレポートが公式Webサイトに出ていたので今日はそのお話。
BUSHI★ROCK FESTIVAL |レキシ ライプレポート
さっき音楽で遊ぶって言ったのは、とにかくパロディの嵐で古今東西を問わず様々な曲に(曲の途中で)脱線していく御館様(とゲスト)。そしてそれをただのコミックバンド的悪ふざけで終わらせるんじゃなくてきっちりとした演奏で連続した音楽として成立させるレキシバンドの面々。今回のライブレポートはそんな元ネタの数々をきっちり解説してくれてる。全部書いちゃうと拍子抜けになるんだけど大事なことなので敢えて引用させていただく。一部書いていない物もあるのでその補足。
- まず「BUSHI★ROCK FESTIVAL」が「FUJI ROCK FESTIVAL」のパロディ(なぜこのフェスをわざわざパロディにしたのかはライブレポートの後半を読んでください。そこまでネタバレするほど無粋ではないのでw)
- 「大奥」の後半のシンガロングで突然EARTH,WIND&FIREの「September」を歌い出す
- 最初のMCで「希有な人達」→「希有’s」→「B’z」で「Ultra Soul」を歌い出す
- ゲストが輿に乗って入場する際に演奏されるBGMが「水戸黄門(しかも歌詞が毎回めちゃくちゃ)」
- いとうせいこうa.k.a.足軽先生がゲストに登場して「恋に落ち武者」を弾き始める指示を遣唐使にしたのにそのまま横で「キラキラ星(進行が似ている)」を口ずさみ邪魔する
- 曲の途中で転調する直前のサンプリング部分を生声で再現し、そのまま安田祥子・由紀さおりの「トルコ行進曲」を歌い出す
- 安藤裕子a.k.a聖徳ふとこと歌った「ほととぎす」の終盤に「ふたりなんだからあの曲歌っちゃうか〜」といって“なぜか”安全地帯の「悲しみにさよなら」を歌い出し、「それじゃないから!」と御館様が怒り郷ひろみ&樹木希林の「林檎殺人事件」を振り付け付きで歌い出す(この曲については安藤裕子のカバーアルバムで実際にデュエットしているので一種のファンサービス的な要素もある)
- 「古墳へGO!」では海援隊の「JODAN JODAN」のパロディで「K・O・F・ためて〜UN!!(元ネタではさすがにためないが)」を何回かやったあとに、日本では西城秀樹のカバーで有名な「Y・M・C・A」に移行
- 本編最後の「きらきら武士」の導入でハナレグミ「家族の風景」を替え歌で「貴族の風景」と歌い出す。その後本人の「甘えん坊将軍(ちょっとやったあとにやらない宣言)」、坂本九「上を向いて歩こう」等色々歌いながら進行
- 新曲「REKISHI DISCO」の途中でPerfume「チョコレイト・ディスコ」の踊りを披露
- エンドロールにThe Beatles「The End」を使用
音楽以外の小ネタ(特に堂島孝平a.k.a.マウス小僧JIROKICHIから教わったあまちゃんネタがとにかく多かった)は省略してこんな所かな。曲自体にもパロディやらオマージュやらが沢山ちりばめられてるんだけどそれについて全部言及しちゃうとキリが無いからやめておこう。というわけで面白かったです、大いに盛り上がりましためでたしめでたしとなる訳なんだけど、最終段落の後半部分を読む限りではそうではないというようなことが伺える。
この日のライブ中、レキシは何度も「後ろの人には伝わらないって。新代田FEVERでやったほうがいい」と吐露していた。「なにしにきたの? 早く帰れ(笑)」と、客席を罵倒する、おなじみのやり取りがなかったのも、会場が大きくなればなるほど、冗談や真意が正しく伝わらないかもしれないという配慮があったからだろう。レキシの人気が増し、キャパが拡大するにつれて、観客に伝えたいという思いは増しているのではないかと感じた180分であった。
レキシのジョークやネタの真意、というかジョークやネタそのもの自体が伝わっていないかもしれない、という心配させるような雰囲気は確かにあった。というかはっきり言ってしまえば伝わっていなかった。まずフェスで披露されている曲とそれ以外の曲の温度差がすごかった。そして脇道にそれた歌や、懐メロ・懐かしネタのジョークの大半はウケが悪かった。それはもうはっきりわかりやすいくらいに。過去のライブから椎名林檎や斉藤和義などのビッグなゲストが出演したときに「わかりやすく盛り上がるんじゃねえ!」って御館様が怒ったりするのはもはや定番だけど、それは平時の盛り上がりもあっての話で、今回は全般的に反応が薄い中「大奥 ~ラビリンス~」「きらきら武士」「狩りから稲作へ」でわかりやすく盛り上がりを見せ、特に後2曲は観客の歓声が他の曲と大違い。「Let’s忍者」ではいつもなら一緒に伴奏無しでシンガロングするところがあるんだけど歌ってる人が少なくて「全然歌ってへんやんか」と御館様お怒り。終演後に「内臓が痛くなった」と言っていたとのことだけど、あれだけのキャパで、フェスでやっている曲以外の手応えがなかなかえられないのであれば、それは堪えるよなあと。「妹子なぅ」「Let’s忍者」辺りは決してやってないわけではないと思うんだけど、いまいち反応薄いのはどうしたことだったんだろう。
レキシのワンマンライブは上に挙げたような古今東西の音楽を包括した脱線をする(しかもいちいち上手いところがいやらしい)しそもそも楽曲自体がPファンクを中心としながら様々な音楽性を取り込んでいるので(1枚目の「レキシ」のライナーノーツをみると、その辺りのアレンジをかなり意図的に練っていることがわかる)、色々知っていた方が楽しめるライブであり、どちらかというとワンマンライブに行くにあたってはCD聞いておいた方がいい類の物ではある。やや意地悪く言うと、深く楽しむことに一定のリテラシーを要求されるライブ。ただフェスの短い時間ではそこまでの表現をしきれないので、盛り上がりを勘案した結果比較的シンプルに笑わせる部分自体が先に立ちやすい。それ自体は間違っていないし、それをやるときにも地力があるのでただのコミックバンドで終わらないからこれだけのファンを獲得することが出来たわけだけど、惜しむらくはここまで殆どを「きらきら武士」「狩りから稲作へ」の2曲で押し通してきたこと。この2曲やるだけで充分30分使ってしまう(ワンマンでは「狩りから稲作へ」1曲だけで30分消費することもざら)ので、他の曲が入る余地はない。まあCD音源では合計10分なんだけどさ。とにかく結果としてはフェスを見てワンマンに見た客にしてみたら知らない曲ばっか、という状態にはなってしまっている感はある。まあワンマンライブ来るならアルバムの1枚くらい聴いて来いよ、とは思うけど。今回はゲストもチケット発売の時点で発表されてたわけだし。とはいえ下手したら人気が一過性の物になってしまう可能性もある。
レキシの場合は極端な例だけど、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのデビュー10周年を記念して行われる横浜スタジアムでのファン感謝祭(リクエストライブ)も同様な構造が表れたケースと言えるのではないだろうか。実際にライブでやる曲をファンからの投票で決めることにして、ファン投票の中間集計をしたところ上位を占めたのはライブにおける定番曲ばかりだった。これに関してはライブ行かない人にまで投票させるとこうなるのは仕方ないところではあるが、フジファブリックなんかも志村和彦在籍時の曲の盛り上がりに現体制の曲は未だに勝てていない。このように、ライトなファン(まあどこからがファンなのかという線引きの問題はあるけど)から熱心なファンに持ち上げるに当たってどのような工夫をするか、定番曲や代表曲以外の「ディープな魅力」をいかに伝えるか、というのはこれからも課題になるのだろうかな。フェス全盛の時代、ミュージシャン側は限られた枠でしか伝えることは出来ないし、観客側もお手軽で凝縮されたいいとこ取り出来るパフォーマンスを求めていて、両者の気持ちは思いっきりすれ違っている。先述の通りレキシは観客を揶揄して「わかりやすく盛り上がるんじゃないよ!」とよく言うが、今ほど観客からわかりやすく盛り上がれる物が好まれている時代もない。フェス→ワンマンの間にはこのアーティストとファンの想いのすれ違いが深く横たわっていて、これをいかに崩せるか、というのが様々なミュージシャンにとっての悩みの種なんだろうなあ、ということをものすごく感じたライブとライブレポートだった。
しかしながらこれを公式サイトで書いた、という異例の事態に相当な苦悩が伺える。結果として「盛り上がりました!」としか書けない大手Webメディアの梯子を外す形にもなってしまっているが、それでも出さなくてはいけない理由があったんだろう。次回の新木場2DAYSも行くけど、その前段としての今年の夏フェスで、どういうアプローチを見せるのかも観に行きたいところ。今のところレキシが出るフェスに都合が合わず行く予定が立っていないんだけど……
6月 15 2014
レキシの「レシキ」に見える音楽の「温故知新」
レキシの4枚目のアルバム、「レシキ」が発売された。
レシキ(DVD付)
ただ日本史のことを歌い、そこに古今東西のポップミュージックのエキスを注入して全力で「音楽で遊ぶ」というコンセプトのユニットがここまで続くとは驚きというほか無いけど、今作もそのコンセプトを忠実に守りつつとてもクオリティ高く、それでいて笑える作品群に仕上がっている。過去最多とも言えるゲスト達がその素晴らしい「遊び」に花を添えている。レキシネーム考えるの大変だっただろうな…それにしても「旗本ひろし」とかクール過ぎる。
と書くとそこで終わってしまうので、今回のアルバムではレキシが音楽的にもレキシである面が一層際立ってたなあと思うわけで、その辺りについていくつか説明したい。音の温故知新。
●レキシとシティポップと江戸時代
今回のアルバムを聴いて感じたのは これまでSUPER BUTTER DOG時代から続いてきたファンク的な曲に加えて、70〜80年代辺りのポップス辺りを参照しているなと思われる曲が多かったこと。先日「魁!音楽番付」で鹿野淳さんがレキシの音楽性についてこんなことを言っていた。
まさにその通りで、本人も「今回はポップ」って言ってるけど、今回の曲はAOR~シティポップの流れに位置づけられるものがこれまでより多いように感じる。1曲目の「キャッチミー岡っ引きさん」なんかはサビの後半の展開からして80~90年代の女性シンガーソングライターが歌ってもおかしくないような曲だし、9曲目の「ドゥ・ザ・キャッスル」なんかはホーンアレンジとか含めて率直に言うとY.M.C.A.っぽいと思った。
この辺、意図したかどうかは別として曲の殆どが近世(戦国・江戸)になっていることからというのは大いにありそうだ。10曲の内戦国より前が1曲、戦国時代が2曲、江戸時代が6曲、戦国〜江戸の辺りが1曲。江戸時代というのは大都会江戸(東京)が成立した時期でもあって、そういう文化史的な側面も踏まえてのアレンジ……というのはさすがに大げさに考えすぎかな。
とはいえ池ちゃんの中で今のモードがファンクよりもAOR/シティポップ方面にありそうなのは、私立恵比寿中学への提供曲からも浮き出ている。特に初提供作「頑張ってる途中」以上に昨年秋の「U.B.U.」は70〜80年代辺りのポップスを参照している感じがする。イントロなんてフィンガー5っぽいと思う。
こういったシティポップ回顧みたいなものについては別にレキシだけの話ではなく、最近インディー界隈で何度も言及されたはっぴいえんど回顧もそうだし、tofubeatsが引っぱった90年代回顧もそうだ。特に最近の話で言うと、Especiaのアルバムなんかはサウンド的には80’sのフュージョンベースのシティポップを思いっきり参照してきてるわけで。(個人的にはそこからヴェイパーウェイブだ!とかもてはやすのは違和感があるんだけどそれは別の話。仕掛け人が意図的にやってるのは理解してるけど)
YouTubeやネット配信で昔の音楽へのアクセス環境が向上したとかもあるけど、そこからシンプルに「カッコいいと思うポイントを抽出してアップデートする」ことの才能、というのがここ最近で評価を得ているんじゃないか、ということも思ったりする。
●全曲簡単レビュー
お気に入りのミュージシャンだとこういうのをやるのが定番になってる気がするけど、語りどころが色々あるアルバムなので早速。試聴も付けときますね(環境により聴けないこともあるかも)。
明るい曲調と大々的に取り込まれたホーンズ、そして後半のサビ展開など、今作の方向性を端的に示している曲だと思う。しかしもち政宗の声のかわいらしさは反則ですよね。後半コーラス抜きで歌うところがたまらなく好き。
曲名の元ネタはスピルバーグ監督の映画「Catch me if you can」か。
シティポップ調で綺麗な声で歌わせるならまさにこの人!という人選。そして「年貢の納め時」からきた祝言ソングという構図は恐れ入る。
まさかのジャズ調。因みに生類憐れみの令は喧嘩両成敗的な思想から来る「安易に人殺ししちゃう風潮」に釘を刺す側面が強かったという説。その辺も踏まえたという池ちゃんの弁(今月のQuick Japanより)。ほんまかいな…w
参考文献↓
生類をめぐる政治――元禄のフォークロア (講談社学術文庫)
喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)
曲名の元ネタはスターウォーズで霊体化したオビ=ワン・ケノービがルークに向けて発したセリフ「Run Luke Run」だそうな。1作品1曲くらいはあるドライブソングっぽい曲。これもまたシティポップ感ありますな。
元ネタは1970年代のファンクロックバンド「Sly & Family Stone」なのだろうか。QJの池ちゃんコメントによると「何かを動かす原動力について歌ってる、FIGHT THE POWER(パブリック・エネミー)な曲」とのことで、「へいへいはいちろー!」とか歌ってるとなんか楽しくなってくるし力が沸いてくるような気がする。笑。あと少し「ジンギスカン」っぽくもある。
昨年の冬のライブツアーで披露されていた曲で、QJではニール・ヤング&クレイジーホース風と紹介されてた。なるほど確かに。
5曲目と同様の、今回のファンク枠。ワンコード繰り返してグルーブ感出す、という意味ではよりこちらの方がファンク感強いかな。シャカッチもいて、という辺りも含めバタードッグ的な感じする。
腹筋崩壊。
一発録りでやっているだろうからライブでの再現は極めて困難なのではないかと思うし、やったとしたら多分全く違う物になりそうな気もする。
「Y.M.C.A.」的なディスコチューン。増子さんだけににオファーしたはずなのに「俺にもレキシネームくれ」とついてきた怒髪天メンバーのコーラスが良い味を出している。特にハゲノウズメ(坂詰さん)の「大手門!」が最高。増子さんが「俺の城〜」と歌う部分のメロディも素晴らしい。Tr1・Tr5と並ぶ今作のベストトラック。
レキシのアルバムは、最後に比較的落ち着いた曲が入る傾向があるのだけど、今回もしっとりとしたバラード。ちょっと男色を連想させる歌詞は1st「レキシ」の「兄じゃ、I need you 」を意識していたりするのかな。
●レキシの未来
「歴史の未来」なんて矛盾してるんじゃないかという話はさておき。アルバムはオリコンウィークリーランキング7位、ニューアルバムと同時に発表された日本武道館公演は一般発売されたチケットが即日完売。本格始動後初である、3年前の新代田FEVERのライブの頃から見てた身としては率直に驚きだけど一度見たらまた見たくなるのは間違い無しなのがレキシのライブ。CD音源以上に音楽で遊び、しまいにゃ色んな歌を勝手に歌ったり変え歌したりするために権利関係に引っかかってしまうため映像パッケージ化されたこと無いしこれからもされる可能性は低い。でも逆に、「一期一会の保存不可能なライブ」が重視されていると言われている最近の世の中で、レキシは圧倒的に正しいことをやっているのではないだろうか。音楽で遊ぼう、歴史と遊ぼう。キャッツ!
By たにみやん • Music, レキシ • • Tags: Especia, レキシ, 私立恵比寿中学