11月 2 2013
「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#05 「七変化のテンポ学」
さて、いよいよ第5回となりましたNHK Eテレの亀田音楽専門学校ケーススタディ。番組本編の方はかなり好評なのか、11月3日にアンコール放送として第1回と第3回を再放送するとのこと(見てない人はぜひ録画しましょう!)。業界ウケだけではなく、きっちり一般の人にもウケているのであれば良いですね。
さて、そんなこれまでの回のケーススタディはこちらから。
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#01 「おもてなしのイントロ術」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#02 「アゲアゲの転調学」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#03 「無敵のヨナ抜き音階」
- 「亀田音楽専門学校」のケーススタディをしてみよう〜#04「大人のコード学」
さて第5回「七変化のテンポ学」。今回から講師はKREVAさん。結構大がかりなサンプラーやDJセットを持参。
●講義内容の要約
まずはいろんなテンポの曲をということで、連続してaiko「カブトムシ」GLAY「誘惑」、夏川りみ「涙そうそう」、福山雅治「HELLO」が流れる。助手の小野さんが気付いたこととして、テンポの早い誘惑とHELLOはKREVAさんが縦ノリに、ゆっくりの曲は横ノリになっているとが挙げられた。これはテンポが曲にイメージを与えるからであり、おなじメロディーでもテンポが変わるとイメージが変わるので、伝えたいことに合わせてテンポを設定してあげることが大事だと。
さて、テンポも「早く」「遅い」ではおおざっぱになってしまうので絶対的な指標で計っている。それがBPM(Beats Per Minute)。つまり分速何拍か、ということになる。例えば60→120は倍。先ほどの曲なら、「カブトムシ」は74。「誘惑」は181。そして、BPM90以下がバラードのゾーンでしっとりした感じ、逆に120以上はパワーゾーンといい、元気・ワクワクのイメージを与えるようなテンポのゾーンになるという。
ここでまたいくつかの曲が流れ、それぞれのBPMが表示される。中島美嘉「雪の華」BPM72。DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」BPM84。薫と友樹、たまにムック「マル・マル・モリ・モリ!」BPM125。AKB48「恋するフォーチュンクッキー」122。
ところでバラードの定義とは?亀田校長の定義では90以下。校長はバラードをテンポで決める。なぜならテンポをゆっくりにすると1音に情報量を込められるようになるから。そこをきっちり決めるのでBPMいくつ、で決める。校長のパワーゾーンはBPM135,KREVAさんBPM138。逆に校長のバラードゾーンはBPM83。校長はバラードをまずBPM83で作ると。これは絶対!とのこと。因みに、KREVAさんはかなりBPMに対するこだわりが強いとのこと。ではなぜBPMにこだわる必要があるのか、JPOPの名曲をBPMを変えてみてどうなるか試してみることに。
米米CLUB「浪漫飛行」(原曲BPM137)をBPM115に→やさしくてしっとりした曲になった。
宇多田ヒカル「FIRST LOVE」(原曲BPM90)をBPM80に→伸ばすのが大変すぎて歌えないwこの歌詞にならなかったのでは?多分言葉をもっと詰め込まなくてはいけなかったのでは?という指摘が。
このように、バラードゾーン、パワーゾーンを把握し、ベストなBPMを生むことが名曲をうむ秘訣。
BPMマジック
曲の途中でテンポが変わったかのように見えるが実はそうではないぞ、という秘伝のテクニックの紹介。人呼んでBPMマジック。
遅くなる例:ラブ・ストーリーは突然に(BPM114)
サビの途中で突然テンポがゆっくりになったように聞こえるけど…?これは実はドラム音符を間引いただけでBPMは変わっていない。間にあったドラムの音の数が減るためにゆったりと聞こえ、歌詞・歌にスポットライトが当たる。それまでパワーゾーンだったものがバラードゾーンに変わり、情感が加わり、歌がくっきりする効果があるのだ。
早くなる例:潮騒のメモリー(BPM77)
逆にテンポが倍になるように聞こえるパターン。通称倍テン。バラードゾーンでしっとり入ってからテンポが上がったように感じさせて盛り上げる。バラードゾーンとパワーゾーンを一曲の中に入れることによって、感情の振れ幅を表しているのだ。
これらは曲を単調にさせないためのテクニックなのだ。
KREVAが選ぶテンポが絶妙な曲
- 久保田利伸「Love Reborn」(64)
すごく遅い曲だけど、遅さを感じさせない曲。 - スピッツ「さわって・変わって」(136)
校長プロデュース曲。倍テンの部分があることによって「さわって〜」のメロディがハネられる。 - YMO「君に胸キュン。」(142)
「〜浮気なヴァカンス」という感じが出ている。かなり速い曲だけど速さを感じない。また、このテンポが今の時代と合っている気もする。
というわけで、この「君に、胸キュン。」を今回のテクニックをふんだんに使ったアレンジで生演奏。最初のサビで早速倍テン。次のサビでは逆にリズムを間引いてみたり。
結論
BPMの数値は迷ったときの指標。テンポとは、曲に様々な表情を着ける一番重要なファクター。間や行間を大事にする日本人には、ひとつの音符にどれだけ情報を込めるかがテンポにより変わるので、聴く人に届く作品になるかどうかの違いになってくる。どうしてこのテンポなんだろうとか考えながら聴いてみるといいかも!!
●ケーススタディ
というわけで、今回は音階を使わなくていいから前回までに比べたら選ぶ作業はものすごく楽でした。今回はBPMマジックを使っている曲に絞って探してみたあとに、個人的に補足したいことなどを。因みにBPMは自力で測定したものなので多少ズレがあるかも……
①パワーゾーン→バラードゾーン(遅くなるパターン)
安藤裕子「パラレル」(BPM160 )
さて、まずは今年デビュー10周年を迎えたシンガーソングライターの安藤裕子から、彼女のシングル曲の中で最もBPMの速い曲である「パラレル」。この曲ではサビの一番最後のフレーズ(58秒あたり)の「君と飛ぶ〜」のところでリズムを間引いてバラードゾーンに移行するテクニックが使われている。そこからイントロのメロディ(これ専用のメロディね)が繰り返されるんだけどそのときにもバラードゾーンのリズムを残したままとなり、余韻を若干残した形となる。これは曲に緩急を付ける意図が強いんじゃないかなと思われる。特に安藤裕子の曲はゆっくりな曲が多いのでこういう早めの曲は聴く側にも緊張感を与えてしまうから、一通り終えたところで一旦休憩、みたいな感じなのかな、と。
因みにドラムは佐野康夫さん。aikoのドラムなんかも担当してるけど正確で上手い、本当にお手本みたいなドラムを叩く人。
クリープハイプ「ラブホテル」(BPM148)
http://www.youtube.com/watch?v=glmtc_36cE0
お次は今年の邦楽ロック界一番の出世株と言ってもいいんじゃないかと思われるクリープハイプ。この曲の2番のBメロ(ムービーの3:02辺り)、「出会ったあの日は〜」のところからテンポが半分になったかのようになる。でもテンポは同じままで。このBPMマジックは歌詞の世界観にかなり沿っていて、「夏のせいにしとけばいい」くらいの軽い関係が漂わせるちょっとした哀愁感というか寂しさみたいなものが醸し出されている。とてもセンスのあるBPMマジック。ほんといい曲だよね。他のシングル曲もいいと思うんだけど、しかしなぜ(以下自主規制
ところでクリープハイプさん、かなりMVには力入れてるんだけどYouTubeでは特別な編集バージョンにしてしっかり音源購入に誘導してるのはえらいと思います。まあこういうのの説明には使いづらいんだけどさ!!!
因みにこの曲はこの夏に出たアルバム「吹き零れる程のI、哀、愛」のリード曲ですね。
②倍テンを使っている曲
のあのわ「スナイパーが狙ってる」(BPM158)
かつて校長がプロデュースしたこともある、教え子のあのわ(因みに曲は「グラデーション」)。かくいう僕も超大好きなんだけどアネッサのタイアップ(因みに今年はクリープハイプがやってるね)の辺りで方向性をうまく見出せなかったのかちょっと迷い子状態になりビクターとの契約は解消。今はインディーズで自主レーベルを作り活動中な訳で、その新レーベルから今年出たニューアルバム収録の1曲がこれ。倍テンの手法の中では一番ポピュラーと思われる「サビで倍テン」を使っている(3:25辺りから)。やっぱりサビは曲の主題であり一番感情が高まるポイントなので、そこで倍テンしてテンションを一気に上げるというのはすごく納得の行く手法。
因みにこの曲が入っている「Cry Like A Monster」、この前ようやく聴いたんだけどかなりすごいアルバムだった。前作「Have A Nice Day!」でトライしようとしてうまくいかなかった80年代ポップスを取り入れて現代的にアウトプットするというのがようやく上手くいってるし、しかものあのわが本来的に兼ね備えるポストロック的な素養も一緒に取り込んで昇華できている。まあこれが一般ウケする作品かというとまたちょっと別の話ではあるんだけど、のあのわらしく、そして2013年らしいすごく良いアルバムだった。
スピッツ「さらさら」(BPM136)
スピッツについては既に教室で取り上げられてるんだけど、どうしてもこの曲について取り上げたかったので。最新アルバム「小さな生き物」のリードシングル。この曲はバラードゾーンへの移行と倍テンの両方が使われている曲なのだ。Bメロ(1番では29秒辺り)でバラードゾーンへ移行し、歌詞の視点が変わってることを巧みに表現している。サビが終わったら倍テンになる(1番のサビでは1:08。2番のサビのあとはCメロがあってその後2:48あたり)ことで、サビの余韻とタイトルの「さらさら」という言葉の余韻をハネた感じで流す効果を出している。そして最後のサビでも倍テン(3:39辺り)。一気に気持ちを高めて曲を終わらせるわけ。しかしながらスピッツの曲には倍テンが合うなあ(観測範囲少なめ)。
この曲めちゃくちゃいい。というかこの曲が収録されているアルバム「小さな生き物」物凄くいい。今年のマストアルバムの1つに上げたいくらいで、ベテランとは思えないくらいの瑞々しさと特にベースとドラムのアイディアの豊富さに驚きを隠せないところで、とにかく惰性とかそういうのは一切感じない。普遍性を感じる素晴らしい作品といって差し支えないと思うので一聴をオススメしたいところ。
補足:ビーイング系ミュージシャンのテンポ変化術について
これは見せかけとかじゃなくて本当にテンポが変わるパターンなんだけど、ある時代のヒット曲に多用されていたので染みついている人も多いんじゃないかと思う。
ZARD「この愛に泳ぎ疲れても」
http://www.youtube.com/watch?v=IUq14BxX57M
この曲のテンポは107(一番最初のサビ)→117(Aメロ〜2回目のサビ)→144(その後ずっと)。この、遅いテンポで始まって曲の盛り上がりと共に本当にテンポを上げていくパターンというのはZARDやTUBE、DEENなどビーイング系のミュージシャンが90年代の前半に多用していた手法だ。今や古くさい手法と見なされたのか使う人もあまり見かけなくなってしまったけど。これはこれで情感を込める手法としてすごく効果的だと思う。情熱の高まりとテンポの高まりを比例させることができるわけでして。
さて、次回もゲスト講師KREVAさんと共に「韻をふんだっていいんじゃない!?」ということで、来週は歌詞とリズムに注目の巻。
12月 18 2013
2013年マイベストディスクトップ20 10位〜6位
さて、年末恒例のマイベストディスク企画、前回の20位〜11位に引き続き、10位から6位を発表。ここからは分量を小分けにしてじっくり話をしたい…!!試聴もたっぷり貼りたい!
因みに今年のこれまでの結果はこちらよりどうぞ。
マイベストソングトップ10
マイベストディスク20位〜11位
10位:パスピエ「演出家出演」
上半期とにかく聴きまくってライブも行きまくり、このブログでも継続的に推していたパスピエのアルバムだけど最終的にはこの位置に。まあこのアルバムもいいんだけど、まあトータルで見るとこんなところかな、と。実際のところ現状確認としては良いアルバムだと思う。先行シングルになった「フィーバー」とリード曲「S.S.」が確かにフィーチャーされる回数は多いんだけど、ラス前の「ワールズエンド」で楽器隊が遺憾無く発揮する見せる演奏スキルとアルバムの締めを飾る成田ハネダ氏によるまるで交響曲のような「カーニバル」の構成は正直に言って彼等の底の無さを感じた。
そういえばレジーさんが「最近のパスピエはマーケットインの姿勢が過剰」って言っていたけど、そこは深くうなずくところではあります。「とおりゃんせ」のロックファン狙いの姿勢はお見事だと思うけど前作や前々作大好きな人間からすると複雑なところでもある。アルバム発売直後に購入者限定でやったタワーレコードのインストアライブではアルバム新曲が楽器隊のスキルを見せつける「ワールドエンド」だったのに対し、その直後の夏フェスでは比較的わかりやすい和風ロックチューンの「はいからさん」っていうのは端的にその表れな気がしてる。ON THE AIRのところで言ったけどパスピエの強みは純ポップソングだろうと僕は思っていて、これはどちらかというと前作や前々作の意匠を汲んでる曲。その辺はサカナクションみたいにセールスや知名度あげて折り合いつけるまで二面性が生じるような形になるのかなとか思った。だといいんだけど。
9位:森は生きている「森は生きている」
今年東京のインディーズ界隈で最も話題になったと思われるアルバム。はっぴぃえんどをはじめとした先達からの影響を包み隠さず公言し(彼等のWebサイトのプロフィールを見ると、関連ワードとして羅列されている一番最初に「はっぴぃえんど」が記載されている)、それをダイレクトに表現したフォーク・ロックの今と昔の交錯する音は多分2013年を代表する1枚なのだろう。実際のところ夏の終わりから秋口にかけてよく聴いたし、今と昔・夢と現実・生と死が交錯する間を表現した淡いサウンドは聴いていてとても心地いい(”森”は「メメント・モリ(死を想えと言う意味のラテン語)」からもとっている)。
ところで彼等の曲を聴き、その取り巻く状況を見ているとどうしても似たような音楽性を持つceroとの比較をしたくなってしまう。ceroもまた細野晴臣へのリスペクトを公言していて、そして今年共演を果たしたくらいだが、その上で彼等は最近は明確に自分達がポップミュージックを更新していく使命を負っていると自覚し、実際にそういう発言も公にしている等、かなり自分たちの音楽性について自覚をもってきているように思う。その分今年のライブに多数のサポートメンバーを入れて開かれた音を目指したり新曲にもまたダイレクトにブラックミュージックのエッセンスを取り込んだりするなどこのインディーズシーンから開いていこうという工夫も感じられるところがある。その分森は生きているは全くそういう気負いがなく若い。その若さが魅力でもあるのだろうけど、逆に好き勝手やってます的な感じでインディポップ特有の入れなさ・壁の高さを感じてしまうところがある。次の作品でどういう変化があるのかな、と注視したいところ。
8位:Homecomings「Homecoming with me?」
半年前に今年の新人賞はもうこのバンドでいいでしょって言ったけど、Shiggy Jr.の猛烈な追い上げがありつつも無事そうなりそう。このバンドの音の瑞々しさにはは本当胸を打たれる思い。アコースティックで一度ライブ聴いたけどフルバンドで聴きたい。コーラスワークはビーチボーイズの影響が色濃く出てて、これもまた今と昔が交錯している音。アルバム1曲目の「You Never Kiss」はイントロを聴いただけで青春だ!と思わずにはいられないくらいに胸を鷲掴みにしてくる今年のイントロ大賞。
京都のバンドながら積極的に東京に来てライブをしてくれているので機会を見つけて観に行きたいところ。それにつけても京都のバンドの自分へのヒット率高いからもっと積極的に探索したいですよ。
7位:Negicco「Melody Palette」
新潟から全国へ。Negicco結成10周年での初のオリジナルアルバム。元々の魅力であったconnieさん楽曲に加え、小西康陽、西寺郷太、tofubeats、サイプレス上野とロベルト吉野、RAM RIDERなどの個性豊かな作家陣が腕によりをかけて作った楽曲が彼女たちの素朴な歌声を引き立てている。tofubeats作詞作曲の「相思相愛」の軽やかさは言うに及ばないし、最初の西寺郷太作曲の「愛のタワー・オブ・ラブ」からNegiccoのベストパートナーであるconnieさんの「あなたとPOP With You!」へノンストップでつながる流れは10年分のエネルギーが一気にはじけるのを感じられる。
とまあこのアルバム自体はいわゆる「楽曲派」アイドルファン御用達のアルバムを超えて一般ポップスファンに広く訴えかけるべき作品、ということで普通に良作。となるとやはり出てくるのが去年発売の究極のアイドルポップスアルバム、Tomato’n’ Pineの「PS4U」との比較。というかトマパイとの比較。
あのアルバムはそれこそ10年に1度と言ってもいい位の奇跡的な作品だったけどそれと裏腹にトマパイメンバーのモチベーションは低く、その奇跡を置き土産にあっさり「散開」してしまった。その辺がラストライブのDVD発売記念(?)イベントで語られてるんだけどそこで引き合いに出されてるのがNegiccoなわけ。トマパイのプロデューサーだったジェーン・スーさんは「Negiccoはメンバー同士で説得し合って続いてきた、その気力が羨ましい」と率直に言っている(そのジェーンさんはこのアルバム後の第一弾シングル「ときめきのヘッドライナー」の作詞でNegiccoと共演することになる)。それが端的に表れているのが初の本人による作詞曲「ネガティブ・ガールズ!」。ここの1番サビ前でリーダーNao☆ちゃんの歌う「嫌なことは明日考えよう!」っていう歌詞は、だいたい「忘れよう!」ってなるところをあえて向き合ってきた彼女達の歴史が凝縮されている、と言ったら言い過ぎなのかな。
この曲、タイトル・歌詞と裏腹の軽やかで明るい曲調のギャップある感じが凄く好きで僕としては「相思相愛」と並ぶフェイバリットトラック。「ネガティブ・ガールズ!」という曲名の語源はおそらく吉田豪さんが去年ベスト盤発売に合わせて行なったインタビューなんだろうけど(本人達もナタリーのインタビューで「作詞してたらネガティブなことしか出てこなかったけど、吉田豪さんのことを思い出したらネガティブさも個性だからいいやと思ってこのタイトルにした」と言っている)、これを読むと彼女達はPerfumeもびっくりの苦労を重ねている。今年はアイドルのストーリー合戦が過剰になってる節があってその典型例がでんぱ組.incの「W.W.D」と「W.W.D II」だったけど、Negiccoはあまりそういう苦労話を前面に出してこないのが好感の持てるところである。というかNegicco題材にしたら「W.W.D(いや、Nか)」なんて10本くらい書けるんじゃないですか。お涙ちょうだいは余り好きじゃないんだけど、普通に良いパフォーマンスをしてくれちゃうNegiccoさん達、これを読んだら応援しないわけにはいかないよなあと思っちゃう。とにかく10年かかって作りあげたベースの上に成り立っているとても良い作品。この歌声とトラックの絶妙なバランス感を是非とも保ち続けてほしいなあと思う次第。
因みに今年は2回Negiccoのライブを観た。両方ともインストアで、1回目は新宿タワレコの大観衆の後方で、2回目は地元埼玉の大宮アルシェのステージのすぐ前という好位置で。どちらも素晴らしいステージング。そのキャリアの殆どを自己流のレッスンで成長してきたNegiccoは本当に押しも押されぬ実力派のアイドルと言うにふさわしいと思うよ。だからこそ2013年最も意義深いアイドルソングである「アイドルばかり聴かないで」を歌えるのは彼女たちしかいないんだ。この10年にそれだけたくさんの物を背負ってきたわけだから。
もはやアルバムレビューというか激励文みたいになってしまっている。笑。
6位:のあのわ「Cry Like a Monster」
僕のあのわ大好きだったんですよ。「MAGICAL CIRCUS」ですごいよこのバンド!って思って2010年のCDJでフルセットのライブ見てますますハマって過去の音源全部買ったくらい。んでその翌年にミュージシャンにとっての飛躍のステップと言われてるアネッサのタイアップを取ったまでは良かったんだけどそこに無理に合わせにいこうとしてあまりうまくいかなかったのね。そのタイアップシングル「Have a good day!」もだけど、その後に出たミニアルバム「Hi! How Are You?」はなんというか妙に80年代サウンドに急接近してて、「ファンタジー感とポストロックっぽい所がのあのわなんじゃないの?なんなのこれ?」みたいな感想を持って正直に言うと失望したのです。そしてシングルとミニアルバムの、アネッサにむりやり合わせたとしか思えないアートワークにも違和感満載でここでのあのわからはかなり離れてしまったわけ。さらには年が開けた2012年には僕がのあのわで最も気に入っていたプレイヤーであったドラムの本間シュンタが脱退。もうどうなるのこのバンド…?という感じで今年の3月に出たアルバムも聴くことなく夏くらいまでほったらかしにしてたの。
そしたら僕同様にのあのわ愛好家だったレジーさんが「のあのわの新譜超良い」と話していたので、率直に「マジですか?」と聞いてみた所、次のような返事が。
なので聴いてみたらこれはホントだ。前作で大失敗した80年代ポップスを彼等の音として取り込むというアプローチに今回は完全に成功している。「スクォンクの涙」みたいなポストロック感あるものを昔のポップスの要素と現代の海外インディポップの要素とを取り込んでアップデートした、結果としてすごく2013年的なポップスになっている。驚いたよこれ。そして公式に上がっているライブ映像見たらこれまた凄い。
チェロボーカルだったYukkoはギター弾いたり(これは結成初期にもやってたし何度かライブでも見たけど)シンセ弾いたりでマルチプレイヤーになってるし、公式に上がってる新曲を演奏したライブ映像のメンバーの気迫はなんかすごい。これもまた紆余曲折を経たゆえの音なんだろうなあ。
このアルバムを経て、「Hi,How Are You?」の音もアップデートされている。
これオリジナルより抜群に良くなってるよ。このバンドはまだまだこれからだな、と思わせてくれたアルバム。チェロはないけど、それ以外ののあのわ成分は確かに残っていて、それが純度を増した分物凄く迫ってくるものがある。昔とは違うけど、これもまた凄く探究心に満ちた彼等らしいアルバムなんじゃないだろうかな。
というわけでここまでで6位。ここにも今と昔が交錯する音で区切りがつきましたね。なんか面白い。それでは次回、いよいよ厳選に厳選を重ねたトップ5の発表です……!!!
By たにみやん • Music, 年間ベスト • • Tags: Homecomings, Negicco, のあのわ, パスピエ, 森は生きている