2015年の音楽配信市場読み解き


先月CDなどのパッケージメディアの売り上げというか生産状況について色々考察など入れてみたけど、音楽配信の方も年間のデータが出たのでざーっとレビューしていこう。日本レコード協会の有料音楽配信売上実績というデータで、こちらは配信業者からの売上データ提出による物なので生産じゃなくて売上なんですね(そもそも複製コストゼロの配信で「生産」を数えることには意味がないしね)。とはいえ、パッケージメディアの時と言葉を合わせた方が良さそうなので「市場読み解き」というタイトルにしとく。たぶん来年もこのタイトルでいくはず。

はっきり明記しているわけではないけど、日本レコード協会が正規音源を扱っていると認定している証である「エルマーク」を付与されている音楽配信サイトがこの集計の対象になっている物と推測される。iTunes StoreやAmazon MP3などの外資系のみならずLINE MUSICやAWAといった定額制配信サイトにもちろんついている(Apple Musicは記載がないがiTunes Storeに含まれているだろう)し、リスト(PDFです)を見るに各アーティスト・レコード会社等の直販サイトも対象になっているようです。としてもちょっと腑に落ちないところがあるんだけど…それはちょっと後で触れます。

ちなみに昨年までの文章はこちら。2011年と2012年はパッケージと一緒。
2011年:音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話
2012年:レコード業界のゆくえ2013(音楽業界はどうヤバくてどうヤバくないかの話 Part.2)
2013年:2013年の音楽配信売上まとめ
2014年:2014年の音楽配信の売上読み解き

ここまでの文章は去年と殆ど同じだけど、基本同じことをあまり繰り返してもくどいので、こちらも適宜参照していただけるとこれ幸い。

●サマリー:定額制配信様々…?

まずは売上数量。

volume

PC/スマホシングル:1億884万8千DL(前年比100%)
PC/スマホアルバム:843万7千DL(前年比109%)
着うた+着うたフル:1482万9千DL(前年比61%)
メロディコール:4,399万4千件(前年比83%)
DL数総計:1億7,811万3千件(前年比91%、ビデオ等その他項目含む)

単曲もアルバムも一緒くたにしておいて数を数えるっていうのは変な話ではある。ここ数年は着うた+着うたフルが急速に落ち込んだ分をPC/スマホ向けでカバーするけどトータルは減少、というところであった。今年までくると着うた+着うたフルは5〜600万件と大した減少数ではないのだけど、PC/スマホ向けダウンロードが停滞しているために今年も引き続きトータルダウンロード数は減少となった。じゃあなんでそんなことになっているのかな、ってところで売上金額。

sales

PC/スマホシングル:174億3,800万円(前年比100%)
PC/スマホアルバム:92億2,900万円(前年比111%)
着うた+着うたフル:23億4,000万円(前年比56%)
メロディーコール:29億5,300万円(前年比79%)
ダウンロード総計:346億8,500万円(前年比100%、ビデオ等その他項目含む)
サブスクリプション:123億9,300万円(前年比159%)
音楽配信売上総計:470億7,300万円(前年比108%)

見て明らかなのはサブスクリプション(つまるところ定額制配信)の伸張とPC/スマホ向けシングル曲の停滞。もちろんその中核にいたのはApple Music、LINE MUSIC、AWAといった第2世代の定額音楽配信サービスだ。ただし、純粋に増えた金額だけ見れば2013年→2014年とほぼ同じだ。ここについては四半期別のデータをもとにここ5年くらいの動きをもう少し詳しく見ていきたい。

detail

2015年の2Q(4〜6月)にAWAとLINE MUSICが立ち上がったあたりからダウンロード売上が頭打ちになっていることがわかる(前掲の数字に出ている通りアルバムはまだ前年度比で上昇しているんだけど、)。また、今年のサブスクリプションの伸張は後半(3Qと4Q)に集中しており(この期間での増加分で30億円であり年間伸び額の66%だ)、第2世代定額制音楽配信が無料期間を終了してもそれなりの人数が有料会員として継続したと推測される。そしてその時期からPC/スマホ向けのダウンロード金額が伸び悩んでいることから、喰い合いが生じているというのもまた事実。しかしこの傾向は世界全体としてそうだしトータルではプラスだからいいかな、という感じなんだろう。

ところで気になっていることが一つある。サブスクリプションの1Q売上は23億4000万円。1月あたり8億円弱、と算出されるわけだ。そしてドコモのdヒッツが2015年の3月に会員数300万人突破を発表したが、この料金が300円か500円のいずれかであることから間をとって一人400円とすると1月あたり12億円の売上が上がることになるわけだけど、計算合わなくない?????実際にはdヒッツには初月無料制度があったりとかで割引も講じられているわけだけど、内訳がわからないから色々見えない(当たり前だけどdヒッツはLマーク認証サイトである)。

何が言いたいのかというと、(数字の不明な点はあるにせよ)今の定額制音楽配信についてはみんなが注目しているApple Music、LINE MUSIC、AWA等と同じくらいにドコモのdヒッツもプレゼンスがあるということ。2013→2014の伸張はかなりここによるところが大きいと考えられる(会員数の推移を見ると顕著)。しかもdヒッツは今年に入ってから嵐の楽曲を配信開始した。ジャニーズの楽曲は他のところでは全然出てこないのに、である(ちなみにSMAP、Sexy Zoneなど一部のジャニーズグループはレコチョクに単曲配信をしているが、あくまでレコチョクのアプリでしか聴けない)。

どうしてか、という理由の一つにdヒッツの配信方法がオンデマンド型ではない、ということが挙げられる。ドコモのdヒッツの説明ページにはこうある。

テーマに沿った楽曲があらかじめ登録されているので、ひとつずつ楽曲を選択する必要がありません。

毎月10曲ずつ、好きな曲を「myヒッツ」に保存することで、好きな時に好きな曲が聴ける♪

音楽プログラムにある曲はもちろん、プログラムにない曲も検索して「myヒッツ」保存が可能!myヒッツした曲は、あたかも楽曲を購入したかのように、いつでもお好きなタイミングでお楽しみいただけます。

どういうことかというと、オフライン保存できるのは月10曲のみであり、基本はドコモが用意したプレイリストに沿った形(AWAのライトプランみたいな感じ)で使ってね、ということだ。この形式ならCD等の購入につながるとして許可する権利者も結構多い。例えばサザンオールスターズはdヒッツに280曲も出している(スマートフォンでリンク先に行くと楽曲試聴もできる)。そんな形態ながらも嵐はジャニーズとして初めてこういった定額制音楽配信サービスに参入した、というのが相当なインパクトなので、これからの動向に注目なわけ。もしかしたら、dヒッツがサービスを拡充していくことで定額制音楽配信サービスのダークホースになる可能性もありうる。この楽曲群をそのままオンデマンド型に持っていければ、という仮定の話であり結構難しいとは思われるが。(2/25追記:dヒッツには「携帯電話契約時にセットで結ばせる所謂「レ点営業商品(申込用紙にチェックマークを入れさせて契約させる商品)」であり、やめ忘れによりあまり使われてないのではという指摘がある。それは確かにそうであるが、ドコモ側でもその問題は認識していて改善に取り組んでるゆえのラインナップ改善であろう。実際ドコモ側の発表ではあるがアクティブユーザーの比率は改善してきているようである。)

さて、ここでどんな曲がたくさんDLされたかも記しておこう。正確な数字はないけど、2015年にリリースされた楽曲で、その年のうちに日本レコード協会でプラチナ(25万DL)以上のランクに認定されたのは以下の楽曲(ページリニューアルにより条件をつけて検索できるようになったから助かる)。

ダブル・プラチナ(50万DL〜)

  • 西野カナ「トリセツ」

プラチナ(25万DL~)

  • クマムシ「あったかいんだからぁ♪」
  • chay「あなたに恋をしてみました」
  • ゲスの極み乙女「私以外私じゃないの」
  • 西野カナ「もしも運命の人がいるのなら」
  • Superfly「Beautiful」
  • 家入レオ「君がくれた夏」
  • back number「ヒロイン」
  • カーリー・レイ・ジェプセン「I Really Like You」
  • ウィズ・カリファ「See You Again feat.Charlie Puth」
  • back number「クリスマスソング」
  • 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE「Summer Madness」
  • THE Sharehappi from 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE「Share The Love」

個人的な感触としては、着うた全盛の時とそんなにラインナップ変わらないような気がしている。シングルトラック単位だとそんなもんかな、という印象。そして去年は松たか子の「Let It Go」というミリオンヒットがあったのだけど、2015年はそこまで突出したものはなく、全会一致で決まるような「1年を代表するようなヒットソング」はないという状態かな、と。まあ敢えて言えば「トリセツ」なのでしょうが、年が明けてからbuck numberの「クリスマスソング」もダブルプラチナになっているので、突出している、というわけでもないかな。

そんな感じで2年連続で売上金額が前年度越えした日本の音楽配信市場。定額制配信が伸張したものの、ダウンロードは頭打ち。そんな中でこれからどうなるか展望のような物を述べていきたい。

●相変わらずのパイの少なさをどうするかという話

去年のこの記事でテイラー・スウィフトがSpotifyに「NO」を突き付け最新アルバム「1989」を大ヒットさせた、という話を書いた。そして彼女は去年もApple Musicの立ち上げに当たって分配率で揉めるという騒ぎを起こした。この話自体はApple側の反応があまりにも早かったことから一種のプロレスみたいなもの、あるいは炎上マーケティングみたいなものなのかな、と推測されるところだけど、メガヒットを出すミュージシャンの動向がこういったサービスの生命線を握っていることを露わにした(「ブロックバスター戦略」みたいな話ですね)。そういった話では、去年アデルが「25」を一切のサブスクリプション型配信サイトなどに通さず、1500万枚以上を2015年のうちに売り上げた。

日本でも大物がサービスの命運を動かす事情は似たようなところがある。そういった大物ミュージシャンにフォーカスすると最も楽曲数のあるAplle Musicですら、iTunes Storeと比べると配信カタログ数はかなり不足しているし、iTunes Store(やmoraやレコチョク)ですら未配信の大物ミュージシャンは未だ多い。なぜ未配信かというと、そもそも配信しなくても買ってくれる人の量が多いからわざわざ配信でディスカウントする必要がないからだ。だからこそ嵐の参入は驚きをもって迎えられた(いや、dヒッツのことなんかみんな見てないから興味ないか…?)。ここを取り込めないと音楽配信サービスが大きく伸びることは見込めない。そもそも音楽配信サービスの売上額というのはパッケージメディアの1/4〜1/5くらいなわけですから。

日本はレンタルCDがあるなど極めて独特な環境であり配信への阻害要因は大きいんだけど、今時CDドライブのないPCも増えてきているし、そもそもPCない人もずいぶんいるし(この5年で個人向け出荷台数も相当減ってしまっている)新しく音楽買ってもらおうとするのであれば配信の方が早いわけ。インフラ面でもCDが今後伸びる芽はないので、業界の命を守りたければ配信を通じて「音楽を聴く人」を増やす必要があるだろう。そもそも音楽自体興味ない、「金払う価値ない」位の考えの人が今の日本のマジョリティである事は疑いようもないので、dヒッツやAWAライトプランや、Spotifyのようなフリーミアムなど、安い価格あるいは0円でリーチを伸ばす施策も欠かせないだろう。フリーミアム自体はリスク高くてやらなそうな気がするけど、YouTubeでしか音楽を聞かない人の多さやLINE MUSIC無料期間終了後の反応の悪さはさすがにわかってるでしょ、とは言いたい。まだその先に「お金払ってもう少し色々自由に聴かない?」みたいな道は用意しておいたほうが良いのでは、というだけ。なんだかんだ制約などありつつ配信の利便性は高いので(この半年くらい、Apple Musicにないものはよほど好きなミュージシャンでない限りCDで買わずにまずダウンロード配信を使う、という流れになっている)、どんどん良い方に変わっていってほしいなあという次第。