6月 15 2014
レキシの「レシキ」に見える音楽の「温故知新」
レキシの4枚目のアルバム、「レシキ」が発売された。
ただ日本史のことを歌い、そこに古今東西のポップミュージックのエキスを注入して全力で「音楽で遊ぶ」というコンセプトのユニットがここまで続くとは驚きというほか無いけど、今作もそのコンセプトを忠実に守りつつとてもクオリティ高く、それでいて笑える作品群に仕上がっている。過去最多とも言えるゲスト達がその素晴らしい「遊び」に花を添えている。レキシネーム考えるの大変だっただろうな…それにしても「旗本ひろし」とかクール過ぎる。
と書くとそこで終わってしまうので、今回のアルバムではレキシが音楽的にもレキシである面が一層際立ってたなあと思うわけで、その辺りについていくつか説明したい。音の温故知新。
●レキシとシティポップと江戸時代
今回のアルバムを聴いて感じたのは これまでSUPER BUTTER DOG時代から続いてきたファンク的な曲に加えて、70〜80年代辺りのポップス辺りを参照しているなと思われる曲が多かったこと。先日「魁!音楽番付」で鹿野淳さんがレキシの音楽性についてこんなことを言っていた。
音楽的な才能は本当に凄いです。アメリカでの昔の「AOR」っていう音楽を、今の時代なりの、日本の街に響かせる音楽として再生させていくシティポップというムーブメントと呼んでも良い、そういう音楽の流れがあるんですけど、それこそ今回のアルバムの中でも、もうねえ、なんかそこのAORっていう昔の、スティーリー・ダンっていう神のような存在がいたんですけど、そのスティーリー・ダンを超えるんじゃないかみたいな、これはなかなか日本人には出来ないですよね。
まさにその通りで、本人も「今回はポップ」って言ってるけど、今回の曲はAOR~シティポップの流れに位置づけられるものがこれまでより多いように感じる。1曲目の「キャッチミー岡っ引きさん」なんかはサビの後半の展開からして80~90年代の女性シンガーソングライターが歌ってもおかしくないような曲だし、9曲目の「ドゥ・ザ・キャッスル」なんかはホーンアレンジとか含めて率直に言うとY.M.C.A.っぽいと思った。
この辺、意図したかどうかは別として曲の殆どが近世(戦国・江戸)になっていることからというのは大いにありそうだ。10曲の内戦国より前が1曲、戦国時代が2曲、江戸時代が6曲、戦国〜江戸の辺りが1曲。江戸時代というのは大都会江戸(東京)が成立した時期でもあって、そういう文化史的な側面も踏まえてのアレンジ……というのはさすがに大げさに考えすぎかな。
とはいえ池ちゃんの中で今のモードがファンクよりもAOR/シティポップ方面にありそうなのは、私立恵比寿中学への提供曲からも浮き出ている。特に初提供作「頑張ってる途中」以上に昨年秋の「U.B.U.」は70〜80年代辺りのポップスを参照している感じがする。イントロなんてフィンガー5っぽいと思う。
こういったシティポップ回顧みたいなものについては別にレキシだけの話ではなく、最近インディー界隈で何度も言及されたはっぴいえんど回顧もそうだし、tofubeatsが引っぱった90年代回顧もそうだ。特に最近の話で言うと、Especiaのアルバムなんかはサウンド的には80’sのフュージョンベースのシティポップを思いっきり参照してきてるわけで。(個人的にはそこからヴェイパーウェイブだ!とかもてはやすのは違和感があるんだけどそれは別の話。仕掛け人が意図的にやってるのは理解してるけど)
YouTubeやネット配信で昔の音楽へのアクセス環境が向上したとかもあるけど、そこからシンプルに「カッコいいと思うポイントを抽出してアップデートする」ことの才能、というのがここ最近で評価を得ているんじゃないか、ということも思ったりする。
●全曲簡単レビュー
お気に入りのミュージシャンだとこういうのをやるのが定番になってる気がするけど、語りどころが色々あるアルバムなので早速。試聴も付けときますね(環境により聴けないこともあるかも)。
- キャッチミー岡っ引きさん feat. もち政宗(江戸時代)
明るい曲調と大々的に取り込まれたホーンズ、そして後半のサビ展開など、今作の方向性を端的に示している曲だと思う。しかしもち政宗の声のかわいらしさは反則ですよね。後半コーラス抜きで歌うところがたまらなく好き。
曲名の元ネタはスピルバーグ監督の映画「Catch me if you can」か。 - 年貢 for you feat. 旗本ひろし、足軽先生(江戸時代)
シティポップ調で綺麗な声で歌わせるならまさにこの人!という人選。そして「年貢の納め時」からきた祝言ソングという構図は恐れ入る。 - お犬様 feat. 尼ンダ(江戸時代)
まさかのジャズ調。因みに生類憐れみの令は喧嘩両成敗的な思想から来る「安易に人殺ししちゃう風潮」に釘を刺す側面が強かったという説。その辺も踏まえたという池ちゃんの弁(今月のQuick Japanより)。ほんまかいな…w
参考文献↓
生類をめぐる政治――元禄のフォークロア (講談社学術文庫)
喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ) - RUN 飛脚 RUN(江戸時代)
曲名の元ネタはスターウォーズで霊体化したオビ=ワン・ケノービがルークに向けて発したセリフ「Run Luke Run」だそうな。1作品1曲くらいはあるドライブソングっぽい曲。これもまたシティポップ感ありますな。 - salt & stone(江戸時代)
元ネタは1970年代のファンクロックバンド「Sly & Family Stone」なのだろうか。QJの池ちゃんコメントによると「何かを動かす原動力について歌ってる、FIGHT THE POWER(パブリック・エネミー)な曲」とのことで、「へいへいはいちろー!」とか歌ってるとなんか楽しくなってくるし力が沸いてくるような気がする。笑。あと少し「ジンギスカン」っぽくもある。 - 僕の印籠知りませんか?(江戸時代)
昨年の冬のライブツアーで披露されていた曲で、QJではニール・ヤング&クレイジーホース風と紹介されてた。なるほど確かに。 - 憲法セブンティーン feat. シャカッチ(飛鳥時代)
5曲目と同様の、今回のファンク枠。ワンコード繰り返してグルーブ感出す、という意味ではよりこちらの方がファンク感強いかな。シャカッチもいて、という辺りも含めバタードッグ的な感じする。 - Takeda’ feat. ニセレキシ(戦国時代)
腹筋崩壊。
一発録りでやっているだろうからライブでの再現は極めて困難なのではないかと思うし、やったとしたら多分全く違う物になりそうな気もする。 - ドゥ・ザ・キャッスル feat. 北のパイセン問屋(戦国〜江戸時代)
「Y.M.C.A.」的なディスコチューン。増子さんだけににオファーしたはずなのに「俺にもレキシネームくれ」とついてきた怒髪天メンバーのコーラスが良い味を出している。特にハゲノウズメ(坂詰さん)の「大手門!」が最高。増子さんが「俺の城〜」と歌う部分のメロディも素晴らしい。Tr1・Tr5と並ぶ今作のベストトラック。 - アケチノキモチ feat. 阿部sorry大臣ちゃん(戦国時代)
レキシのアルバムは、最後に比較的落ち着いた曲が入る傾向があるのだけど、今回もしっとりとしたバラード。ちょっと男色を連想させる歌詞は1st「レキシ」の「兄じゃ、I need you 」を意識していたりするのかな。
●レキシの未来
「歴史の未来」なんて矛盾してるんじゃないかという話はさておき。アルバムはオリコンウィークリーランキング7位、ニューアルバムと同時に発表された日本武道館公演は一般発売されたチケットが即日完売。本格始動後初である、3年前の新代田FEVERのライブの頃から見てた身としては率直に驚きだけど一度見たらまた見たくなるのは間違い無しなのがレキシのライブ。CD音源以上に音楽で遊び、しまいにゃ色んな歌を勝手に歌ったり変え歌したりするために権利関係に引っかかってしまうため映像パッケージ化されたこと無いしこれからもされる可能性は低い。でも逆に、「一期一会の保存不可能なライブ」が重視されていると言われている最近の世の中で、レキシは圧倒的に正しいことをやっているのではないだろうか。音楽で遊ぼう、歴史と遊ぼう。キャッツ!
1月 2 2016
COUNTDOWN JAPAN 15/16に行ってきた話 〜完全に確立した”年末の風物詩”〜
あけましておめでとうございます。定例なので、今年も昨年末から元旦にかけて行っていたCOUNTDOWN JAPANについて色々振り返るところから始めたいと思います。新年早々振り返りから始まるのだけどいいのか。
今年も去年同様後2日参加でした。見たのはこんな感じ。
30日:cero→LITTLE GREE MONSTER→東京スカパラダイスオーケストラ→パスピエ→GOOD ON THE REEL→back number→DAOKO→電気グルーヴ→サカナクション
31日:the HIATUS→the band apart→The Fin.→Shiggy Jr.→エレファントカシマシ→清竜人25→BUMP OF CHICKEN→Czecho No Republic→SPECIAL OTHERS→banvox→SCANDAL
特に良かったのはceroとBUMP OF CHICKEN。後者については後ほど詳述します。あと良かったのはサカナクション、Suchmos、Shiggy Jr.、清竜人25辺り。自分の好きなもの中心に見てたから当たり前ではあるんだけど、全般的に満足度高かった。
さて、今年も実際に行って色々気付いたところがあるので書き残しておきたいと思う。
●ブッキングの話〜アニソンDAYは定着するか?
今年のブッキングの特徴だけど、概ね昨年までの傾向を踏襲しつつ幾つか変化があったのでまとめておく。
今年呼ばれたグループアイドルはBABYMETAL、でんぱ組.inc、チームしゃちほこの3組。いずれも日本武道館公演をソールドアウトさせた実績のあるグループだし、横浜アリーナ2DAYSを成功させ東京ドームを控えるBABYMETALや代々木第一体育館2DAYSを成功させたでんぱ組.incはEARTH STAGEに配置された。ただあくまでそれは例外的というか、ジャンルの枠をこれらのグループが飛び越えてるとの判断によるもので、後述するアニソン関連歌手やSirent Sirenなども含め、日本武道館を売り切っても「ロックフェスがアウェイ」のグループはCOSMO・MOON・ASTROの3ステージのいずれかに配されている(GAKLAXY STAGEの大半は武道館でやったことなんてないミュージシャンなのに!)。率直に言って目配せしてますよレベルで、それ自体の集客効果についてはかなりシビアに見ているようだ。
そして、去年も28日に呼ばれたアニソン勢(何故28日なのかというとコミケと重ならないのがその日だけだからだろう)については、昨年に引き続きのKalafina、OLDCODEX、LiSAに加えてAimer、藍井エイル、茅原実里が追加され、加えて昨年ごっそり削られたボカロ勢からじんが復活。タイムテーブル上は全く重なってなかったので、その気になればプチアニメロウィンターライブする事も可能であった。年末にはこういうタイプのアニソンライブイベントが無く、なおかつ28日は仕事納めが終わってない人も多くそもそも来られる人が少ない(が、これらのファンは若年層が多くこの日程でも来られる)ので層を広げで会場を埋めるというのは有効な策だろう(現にこの日は4日間のうち唯一当日券が出た日になった)。
また、これはRIJFと合わせて話すべきことなのだろうけど次世代のバンドをピックアップ・ブッキングしていこうという考えがあるようで、ネクストブレイク組がかなり呼ばれてたな、という印象。Shiggy Jr.なんかもそうだろうけどThe Fin.、Suchmosなど既存のROJ的文脈と離れたグループがそこに該当する。元々1000人未満のライブハウスでワンマンというグループが多いこともあり決して動員が良かったとは言えないが、今後も継続してブッキングしてほしいところ。
●会場設備の改善と「音楽の鳴るお祭り」化
会場は今年も1〜8ホール+イベントホールをライブ会場及び飲食スペース、9〜11ホールをクローク・物販・リクライニングスペースとする形。基本ライブ・フードエリアにたくさん人が入るようにしている形なんだけど、今年は大きく2つのマイナーアップデートがあった。1つはGALAXY STAGEの位置でもう一つは開催時間の変更。
まず会場の話。昨年は8ホールをまるまる使う形だったのが、今年は方向を変えて7〜8ホールをまとめたエリアの半分弱を使う形となった。多分なんだけど、去年より収容人数は少なくなってるはず(公式サイトによると収容人数16,000人。去年のは書いていないんだったけど、20,000人って話だったような……?)。また、昨年は丸ごと1つのホールで壁も立ててと記憶しているのだけど、防音のような工夫は幕が張ってある程度でステージの音がほぼ丸聞こえ。もちろん幕の向こう側に行った方が音は良く聞こえるとはいえ、別にフードエリアでもそこそこ音楽を楽しめるという状況。この工夫は、率直に言って最近のこのフェスの客層にはわりとマッチしているのではないか、という気もしてきてしまう。まずは、下のエリアマップを見てみてほしい。
これはCDJ公式サイトのマップに僕が赤線を書き入れたものだ。6個ほど赤で新規に書き加えているけどこれは何かというと、写真撮影ポイントとして行列ができていたところだ。昨年に引き続き公式コラボブースとして登場したスターウォーズブースはライトセイバーを持って写真を撮れるところで、WOWOWブースでは撮影した写真をSNSにアップすることでステカーがもらえる、という試みをしていた。それがいいとか悪いとかそういうことではなく、写真撮影に行列しながらも音楽がそれなりに聴こえる場であるというような工夫が比較的されているように感じた(COSMO/MOON間とASTORO2階ロビーにあるROCKオブジェクトは音が聞こえづらくなる位置だけど)。大多数がそうだというつもりは全くないけど、「その辺で音楽が鳴っているお祭り」くらいな感じで来ている人もそれなりにいるんじゃないかという気がする。ステージはそこそこおめあてのをちょっと見られればいいやみたいな。そういう感じでフェス慣れしている人から全然慣れていない人まで様々な人を受け入れる都合上、会場整理・誘導(特に海浜幕張駅から9〜11ホールへの誘導)なんかはかなり小慣れてきたなという感想を持った。あと、個人的にはこのステージ入口ディスプレイが良いなと感じた(その分ラインナップ看板がなくなったのはちょっと納得いかないけど)。
それからもう一つの時間変更だけど、今年は開演時間と終演時間がそれぞれ1時間早まった。シンプルに会場にいる人が多くなりすぎたので電車のキャパとの兼ね合いによるものだろう。先に述べた会場整理・誘導など含めてイベントとしての洗練度というか快適性の追究は引き続き行われているようなので来年もより良くなることを期待するところ。今年はそこまで寒くなかったので9〜11ホールへの移動が大変ということはなかったけど、終演後は人がたくさん集まって移動に時間がかかるので風除けなどあるとめちゃ寒かった時なんか良いのでは、というリクエストをしておきたい。去年から言ってるけど。
●紅白中継で「世間」とつながったCDJ
今年のCDJの最大のトピックとして挙げられるのはBUMP OF CHICKENの紅白初出場とそれがCDJ会場からの中継で行われたことだろう。クイックレポートにも記載があるけど少し補足しきながら振り返りたい。
1曲目の「Hello,world!」が終わったら影アナ鮎貝さんも登場しての5分以上に及ぶ長めのMC(ここはあまり評判よくなかったけどもう1曲やってギリギリになったら怒られるとか色々理由があったんだろう)。そして鮎貝さんの「それでは紅白歌合戦の会場の様子を見てみましょう」の声で前方ディスプレイが紅白のオンエア映像に切り替わり。西野カナ「トリセツ」の曲紹介くらいから流れる。この時点ではまだ音声なし。そして西野カナの歌唱が終わったところで音声が入り、司会のV6井ノ原快彦が藤原基央に意気込みを聞いて準備を促した後「COUNTDOWN JAPAN、国内最大の年越しフェスです」という紹介。お茶の間でCDJの名前が出てくるなんて!!何年も通っている側としては感慨深い瞬間であった。音楽好きではない知人・友人の間では名前も存在も知られてなかったわけで。ある種、コミケに次ぐ「年末の風物詩」としてその地位が確立された瞬間ではないかなと思う。
そして、映像が入ったあたりから徐々に紅白モードに切り替わっていくのを現場で肌で感じることができたのはとても良かった。バンプの演奏もめちゃくちゃ気合い入っていたし、観客の盛り上がりも良かった。結構な数の人がテレビに映りたいというか現場に居合わせたいという野次馬だったけど(結構な数の人が中継終わってすぐ出て行った)、そういう人達も含めて会場の空気感に独特のものがあったのを肌で感じた。バンプに特に思い入れがあるわけではないけど、率直に言ってものすごい感慨深いステージだった。
この歴史的瞬間についてだけど、事務所の後輩であるサカナクションが2013年の紅白歌合戦に出たことから繋がっているだろう。それ以来所謂「音楽雑誌」初の文化圏が紅白に入り込んでいくことになった走りだ。2014年のセカオワも、2015年のバンプ・ゲスの極み乙女も(あるいは星野源も)、サカナクションが築き上げた道に乗っていると言っていいんじゃないかと思う。バンプは紅白どころかテレビにすら出ないことを信条とするバンドの代表的存在だった。しかし、それすらも動かした、ということはとても大きなインパクトのある出演だったんだな、ということを2年たった今再度確信する次第。
そんなわけで今年も良いCDJでした。基本的に今年見られた変化は好ましいものだと思っているので、きっと次回も行ってると思います。そんでもって今年もよろしくお願いいたします。
By たにみやん • Music, レキシ •